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はじめに(初版)

1981年にAIDSが初めて報告され25年が経過した。HIV感染症は発見当初、治療法もない致死の病であったが、抗HIV薬による多剤併用療法(HAART:highly active antiretroviral therapyあるいはART:antiretroviral therapy)の登場を機に、医学的コントロールが可能な慢性疾患と位置づけられるようになった。現在では、HIV感染症も早期発見されれば通院加療によりAIDSを発病することもなく、学業や仕事を継続できる時代となった。しかし、未だに「根治薬」がなく治療は長期におよび、服薬による副作用や薬剤耐性HIVの出現など多くの課題がある。わが国ではHIV感染症と遭遇した経験のない医療者が大半を占め、HIV診療経験に乏しい拠点病院も少なくない。しかし、厚生労働省エイズ動向委員会の報告に依れば、わが国でもHIV感染症は若い世代を中心に拡大しており、拠点病院を中心とした多くの施設でHIV感染症治療の実践が、今後さらに必要になると予想されている。

世界を見ればHIVは若者など社会における脆弱性の高い(vulnerable)人々に拡がっている。HIV感染は人を選ばない。医療者は、患者が医療者にさえHIV感染を開示することへの不安や偏見差別への恐怖を抱えて受診している場合が少なくないことを念頭に置く必要がある。根治薬がない現在、感染者にとってHIV感染は消えることがない事実である。感染の告知を受けてから、多くの感染者は他者とのコミュニケーションが不自由となり相談も困難となる。感染を知り症状が出てもAIDS発病を恐れながら受診さえできない感染者が未だにある。医療者は患者が受診した勇気を評価し、その出会いを大切にすることがHIV診療の第一歩である。初診での対応が患者のその後の療養姿勢・態度を決定する。医療者は患者の身体的、精神・心理的苦痛や社会経済的困難を和らげ、特に服薬に伴う身体的、精神・心理的、社会経済的負担の軽減に努めなければならない。具体的にはどうすれば良いか。医師は医療チームのリーダーであり、外来診療においても多くの役割と重い責任を担っている。「3分間診療」という言葉に象徴されるように外来の診療時間は制限され、患者に必要な医療を十分提供するにはチーム医療の実践が不可欠である。幸い、チームには看護師がおり、病院であれば薬剤師もいる。施設によってはソーシャルワーカーやカウンセラーもいる。サービス内容に応じて各職種が分担するのが効率的であり、各職種が専門性を活かすことで、総合的に良質な医療を提供できる。ただ、医療上必要な情報が職種毎に分断されたり、チームの診療・ケアにおけるポリシーが不明確にならないように、外来カンファレンスなどで相互にコミュニケーションを図ることも重要である。「治療の成功」には服薬アドヒアランスが重要である。100%近い服薬率を維持するには患者自身が多くの努力と工夫をする必要がある。そのためにも医療者は患者と話し合うスキルを身につけ、患者と繰り返し話し合う必要がある。「説明と同意」は現在の医療の基本であるが、患者も医療者と話し合う医療に参加する必要がある。患者がHIV感染と生涯付き合っていくことを支援するには、医師のみならず、皆がスクラムを組んで取り組むチーム医療の構築が必要である。

この度、厚生労働科学研究費補助金エイズ対策研究事業「多剤併用療法服薬の精神的、身体的負担軽減のための研究」班で「HIV診療における外来チーム医療マニュアル」を作成した。本冊子が、これからHIV診療を始める医療者や、既に診療を行っている医療者、そして服薬支援を実践する方々に活用していただけると幸いである。

平成18年3月

平成17年度厚生労働科学研究費補助金エイズ対策研究事業
多剤併用療法服薬の精神的、身体的負担軽減のための研究 主任研究者 白阪琢磨
独立行政法人国立病院機構大阪医療センター HIV/AIDS先端医療開発センター センター長

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