V初回治療に用いる抗HIV薬の選び方

4.内服しやすさ(服薬率の維持)への配慮

 治療成功のために何%の服薬率が要求されるかについては、これまで種々の報告がされている。PatersonらはARTを開始した症例で、血中HIV RNA量が400コピー/mL未満を達成できたか否かを服薬率ごとに検討した結果で、服薬率が95%を下回ると十分な治療成績が得られないことを示している(図V-2)51)。しかし、この報告の対象者は新規に治療を開始した者ばかりではなく、またARTメニューはrtvを併用しないPI(unboosted PI)を含む組み合わせに限定されていることに注意する必要がある。現在では、特別な事情がない限り、unboosted PIで治療することはない。もちろん、個々の症例・ARTメニューにおいてベストの結果を得るためには、100%の服薬率を目指すべきことは言うまでもない。

 服薬率を維持するためのポイントは、用量・用法すなわち錠剤数、内服回数、食事の制限である。いかに強力な抗HIV作用をもつ薬剤でも内服する錠剤数が増えると服薬率が低下し、治療成績の悪化につながる。また、服薬に際し食事の制限を受ける薬剤も、服薬率の低下につながる。食後に服用しなければならない薬剤を選択する場合は、患者が規則正しい日常生活を送っているかどうかを確かめておく必要がある。食事時間がまちまちであると、内服率を維持することがしばしば困難である。服薬回数に関しては、少ないほど服薬率の維持に有利と考えられる。実際、1日の服薬回数についての患者の意識調査では、多くのHIV感染者が1日1回内服に興味を示していることが示されている52)。患者のQOLの維持のためには1日1回投与のARTが望ましいと思われる。ただし、現時点で1日1回内服のARTが同じ薬剤の1日2回内服のARTよりも治療成績が良いというエビデンスは乏しい。1日1回内服と2回内服での服薬率の差を調査した4つの後ろ向き解析では、1回内服の方が服薬率が悪い傾向にあるという報告53)、逆に良い傾向にあるという報告54)、差がないという報告55, 56)が入り乱れている。服薬不良者が1日1回投与のARTをより多く望んだ可能性などがあり、明確な結論を得るためには前向きの比較試験の結果を待つ必要があるが、注意を要する報告である。最近発表されたメタ解析では、1日の内服錠数が少ないほどアドヒアランス遵守率とウイルス抑制率が高いことが示された57)。しかし、この解析には1日1回1錠(Single tablet regimen)は含まれていない。この報告では1日1回内服と2回内服の比較においては、ウイルス抑制率に差は見られなかった。また、一定の期間に1日1回内服の処方を1回飲み忘れるのと、1日2回内服の処方を(連続してではなく)2回飲み忘れるのでは、服薬率は同じ計算になるが薬物動態に与える影響が前者の方が大きくなることを危惧する向きもある58)。1日の内服回数に関わらず服薬率100%を目指すことが基本である。

 ART開始にあたっては、患者に服薬率の維持の重要性をよく説明し、実際に内服する薬剤の数、大きさ、服薬回数、食事との関連などに十分納得して頂いた上でARTを開始しなければならない。初回治療に失敗しウイルスが耐性化すれば、次に選択するARTは初回のものより飲みづらい組み合わせとならざるを得ない。服薬率を維持するために重要と思われるポイントを、ART開始前後の早い時期と1ヶ月以上経過してからの時期に分けて表V-6に箇条書きにした。厚生労働科学研究費補助金エイズ対策研究事業「服薬アドヒアランスの向上・維持に関する研究」班では、「HIV診療における外来チーム医療マニュアル」を作成して服薬率維持のために医療従事者に必要なポイントを提供している59)。また、班ホームページでは、患者の服薬支援のためのメールサービス「忘れちゃだメール」というユニークなサービスを行っており、服薬遵守が困難な症例にお勧めいただくのも良い方法である。

V-2 服薬率と抗HIV療法の成功率の関係(1)
縦軸が治療成功率(%)、横軸が服薬率の棒グラフ。服薬率が95%以上のとき、治療成功率は78.3%。服薬率が90%-94.9%のとき、治療成功率は45、4%。服薬率が80%-89.9%のとき、服薬率は33.3%。服薬率が70-79.9%のとき、治療成功率は28.6%。服薬率が70%以下のとき、治療成功率17.9%。
新規治療および治療経験者を含む81症例で、RTVを併用しないプロテアーゼ阻害薬を含むARTを行った場合の治療成功率(開始4ヶ月目にHIV RNA量が400コピー/mL 未満)と服薬率の関係をみたもの。Paterson et al. Ann Intern Med. 133: 21, 2000 より作成。

PAGE TOP

アンケートにご協力ください。

このページは役に立ちましたか?

コメント