VI治療失敗時の薬剤変更

3.耐性検査(遺伝子型)の解釈と治療薬の変更

 薬剤耐性検査には、ウイルス遺伝子の塩基配列を調べて変異アミノ酸を見つける遺伝子型解析(genotypic assay)と抗ウイルス薬の存在下でウイルスの増殖をみる表現型解析(phenotypic assay)がある。現在日本で保険収載されている耐性検査(HIV-1ジェノタイプ薬剤耐性検査)は遺伝子型解析であり、本ガイドラインでは遺伝子型の耐性検査についてのみ言及する。

(1)耐性検査の基礎知識

 抗ウイルス薬を内服している(はずの)患者において血中HIV RNA量のコントロールが不良な場合は、薬剤耐性HIVの出現の可能性を念頭におき薬剤耐性検査を行う必要がある。耐性検査により治療失敗の原因を明らかにすることが出来るし、ARTメニューを変更する際の重要な情報となる。薬剤耐性検査を行う際には、以下の2点を念頭におく必要がある。

  • 耐性検査は原則として薬剤服用中に実施しなくてはならない
  • 耐性HIVが患者体内のHIVの30%程度以上を占めないと検出されない

 耐性HIVを有する患者体内には野生型HIVも共存している。ウイルスの増殖スピードの点から見ると、薬剤の作用部分に変異が生じている耐性株の増殖スピードは、野生型のそれより劣ることが多いため、薬剤中断後には野生型HIVが耐性HIVを凌駕して増殖する。そのため、治療中断後は耐性HIVの頻度は次第に低下していくことになる。一方、通常の耐性検査(遺伝子型)では野生株も耐性株もまとめて遺伝子配列を決定するため、患者体内のHIVのうち耐性HIV株が約30%以上にならなければ耐性変異株を検出することができない。そのため、治療中止後、つまり抗ウイルス薬の血中濃度が低下し野生型の増殖が回復した状態で耐性検査を行い耐性変異が検出されなくとも、本当に耐性を生じていなかったのか、耐性HIVの比率が減少したため検出されなかったのかは判断できない。逆に、HIV RNA量がコントロールできていない症例の治療中の検体で耐性変異が検出されない場合は、その患者が薬剤を内服していなかったことが強く疑われる。

(2)耐性検査(遺伝子型)の結果に基づく抗HIV療法の変更

 治療失敗時に、薬剤耐性検査の結果を参考にして薬剤変更した群と過去の治療歴の情報のみを参考にして薬剤変更した群との比較では、前者で有意に良好な成績が得られており15)(図VI-4)、治療変更を考える際に耐性検査は必須である(AI)。

図 VI-4 Salvage治療の効果と耐性検査
縦軸が24週でウイルス量400未満の割合(%)の、24周後の治療成績を比較した棒グラフ。耐性変異検査(遺伝子型)の結果をもとにSalvage治療メニューを決定した症例は60%弱で、検査結果なしに決定した症例は40%強だった。
治療失敗時に、耐性変異検査(遺伝子型)の結果をもとにSalvage治療メニューを決定した症例と、検査結果なしに決定した症例の24 週後の治療成績を比較した。
Tural et al. AIDS. 16: 209, 2002より。

 耐性検査(遺伝子型)では、HIV逆転写酵素、プロテアーゼ、およびインテグラーゼのどのアミノ酸部位に変異が起きているかという結果が表示される(図VI-5-1)。また、これまでの耐性HIV株の薬剤感受性のデータの蓄積から、これらのアミノ酸変異と各薬剤の耐性の程度の間には図VI-5-2に示すような関係が明らかになっており16)、この情報から耐性検査結果を解釈することになる。以下に耐性変異とその解釈の例をあげる(なお、例2と例4についてはVI-6のデータも参照)

<例1>逆転写酵素の41番のアミノ酸がL(ロイシン)に変異
→ AZTに軽度の耐性、ABC、3TC、TDF、FTCは影響を受けない
<例2>逆転写酵素の184番のアミノ酸がV(バリン)に変異
→ 3TCとFTCに対しては高度の耐性となるが、AZTとTDFに対してはむしろ感受性が増強する
<例3>逆転写酵素の103番のアミノ酸がN(アスパラギン)に変異
→ NNRTIであるEFVに対して高度耐性、ETRとRPVは影響を受けない
<例4>プロテアーゼの50番のアミノ酸がL(ロイシン)に変異
→ ATVに高度耐性となるが、LPV/rとDRVに対してはむしろ感受性が増強する

 遺伝子型耐性検査のやっかいな点は、アミノ酸変異が蓄積するにつれて個々の変異の耐性を表示した図VI-5-2からだけでは各薬剤の耐性の程度を読み取ることが次第に難しくなることである。特に、NRTI耐性に関連した変異の中には、ある薬剤に対する耐性変異が他の薬剤に対する感受性を増加させるものがあり、その解釈をさらに複雑にさせている。簡便な方法として、種々のアミノ酸変異をもつ臨床分離HIV株の表現型耐性検査の結果がデータベース上で公開されており、それを参照することで遺伝子型耐性検査の結果を表現型(IC50)に置き換えることが出来る(IC50とは、HIVの増殖を50%抑制するのに必要な抗ウイルス薬の濃度である)。図VI-6に、変異が蓄積すると耐性の程度がどのように変化するかについての一例を示す。図中の数字は、野生株のIC50を1とした場合の患者由来HIV株のIC50の相対比(IC50比)である。したがって1未満であれば感受性が増強していることを示し、1を超えてIC50比が増加するほど薬剤耐性が増すことになる。ただし、NRTIの場合薬物血中濃度よりも細胞内濃度の方が抗ウイルス活性に重要であると考えられ、表現型検査で得られるIC50比が必ずしもin vivoの効果を反映しない可能性がある。また、PIの場合は少量rtvをチトクロームP450阻害剤として用い高いトラフ値を得ることができるため(いわゆるboosted PI)、IC50比が上昇しても臨床的に抗ウイルス効果が持続する。この傾向はLPV/rで最も顕著で、LPV/rのトラフ値はLPV単剤のIC50の70倍以上にも達する17)。そのため、LPV耐性変異の中でIC50比が70倍までの変異を持つHIVにはLPV/rの抗ウイルス効果が期待できることになる。一方、NNRTIに対する耐性変異の多くは1つのアミノ酸置換で高度耐性となることが多く、その解釈は比較的容易である。

図 VI-5-1 薬剤耐性変異とその読み方
図 VI-5-2 各抗HIV薬の標的酵素のアミノ酸変異部位
核酸系逆転写酵素阻害薬(NRTI)
  AZT ABC 3TC TDF FTC  
41L 軽度耐性  耐性なし  耐性なし  耐性なし  耐性なし    TAM
67N 軽度耐性  耐性なし  耐性なし  耐性なし   
70R 中等度耐性  耐性なし  耐性なし  耐性なし  耐性なし 
210W 軽度耐性  耐性なし  耐性なし  耐性なし  耐性なし 
215FY 中等度耐性  耐性に寄与  耐性なし  耐性に寄与  耐性なし 
219QE 耐性に寄与  耐性なし  耐性なし  耐性なし  耐性なし 
65R 感受性増加 中等度耐性  中等度耐性  高度耐性  中等度耐性   
69_ins 高度耐性  高度耐性  中等度耐性  高度耐性  中等度耐性 
69D 耐性なし  耐性なし  耐性なし  耐性なし  耐性なし 
70E 感受性増加 軽度耐性  耐性に寄与  軽度耐性  耐性に寄与 
74VI 耐性なし  中等度耐性  耐性なし  耐性なし  耐性なし 
75T 耐性なし  耐性なし  耐性なし  耐性なし  耐性なし 
75M 耐性に寄与  耐性なし  耐性なし  耐性なし  耐性なし 
115F 耐性なし  高度耐性  耐性なし  軽度耐性  耐性なし 
184VI 感受性増加 軽度耐性  高度耐性  感受性増加 高度耐性 
62V 耐性なし  耐性なし  耐性なし  耐性なし  耐性なし    151
Com­plex
75I 耐性なし  耐性なし  耐性なし  耐性なし  耐性なし 
77L 耐性に寄与  耐性なし  耐性なし  耐性なし  耐性なし 
116Y 耐性に寄与  耐性に寄与  耐性なし  耐性なし  耐性なし 
151M 高度耐性  高度耐性  軽度耐性  軽度耐性  軽度耐性 
非核酸系逆転写酵素阻害薬(NNRTI)
  EFV ETR RPV  
98G 軽度耐性  耐性に寄与  軽度耐性   
100I 高度耐性  中等度耐性  高度耐性 
101E 軽度耐性  軽度耐性  中等度耐性 
101P 高度耐性  高度耐性  高度耐性 
103N 高度耐性  耐性なし  耐性なし 
103S 中等度耐性  耐性なし  耐性なし 
106A 中等度耐性  耐性なし  耐性なし 
106M 高度耐性  耐性なし  耐性なし 
108I 耐性に寄与  耐性なし  耐性なし   
138A 耐性なし  耐性に寄与  軽度耐性 
138K 耐性に寄与  耐性に寄与  中等度耐性 
138GQR 耐性に寄与  耐性に寄与  軽度耐性 
179F 耐性に寄与  軽度耐性  軽度耐性 
179L 耐性に寄与  耐性に寄与  軽度耐性 
181C 中等度耐性  中等度耐性  中等度耐性 
181IV 中等度耐性  高度耐性  高度耐性 
188C 高度耐性  耐性なし  耐性なし   
188L 高度耐性  耐性に寄与  高度耐性 
188H 中等度耐性  耐性なし  耐性なし 
190A 中等度耐性  耐性に寄与  軽度耐性 
190S 高度耐性  耐性に寄与  軽度耐性 
190E 高度耐性  中等度耐性  高度耐性 
221Y 耐性に寄与  耐性に寄与  軽度耐性 
225H 中等度耐性  耐性なし  耐性なし 
227C 中等度耐性  中等度耐性  中等度耐性 
227L 軽度耐性  耐性なし  耐性なし 
230I 軽度耐性  軽度耐性  中等度耐性 
230L 中等度耐性  中等度耐性  高度耐性 
238T 中等度耐性  耐性なし  耐性なし 
プロアテーゼ阻害薬(PI)
  LPV/r ATV/r DRV/r  
30N 耐性なし  耐性なし  耐性なし    メジャー
変異
32I 軽度耐性  軽度耐性  軽度耐性 
46IL 耐性に寄与  耐性に寄与  耐性なし 
47A 高度耐性  耐性なし  耐性に寄与 
47V 軽度耐性  耐性なし  耐性に寄与 
48VM 耐性に寄与  中等度耐性  耐性なし 
50L 感受性増加 高度耐性  感受性増加
50V 中等度耐性  耐性なし  軽度耐性 
54ML 軽度耐性  軽度耐性  軽度耐性 
76V 中等度耐性  耐性なし  軽度耐性 
82TS 中等度耐性  軽度耐性  耐性なし 
82A 中等度耐性  中等度耐性  耐性なし 
82F 中等度耐性  軽度耐性  軽度耐性 
84V 中等度耐性  高度耐性  軽度耐性 
88S 耐性なし  高度耐性  感受性増加
90M 軽度耐性  軽度耐性  耐性なし 
10IRV 耐性なし  耐性なし  耐性なし   
10F 耐性なし  耐性なし  耐性なし 
11I 耐性なし  耐性なし  耐性なし 
20MR 耐性なし  耐性なし  耐性なし 
24I 耐性に寄与  耐性に寄与  耐性なし 
33F 耐性なし  耐性なし  耐性なし 
36I 耐性なし  耐性なし  耐性なし 
53L 耐性なし  耐性に寄与  耐性なし 
54VTAS 軽度耐性  軽度耐性  耐性なし 
63P 耐性なし  耐性なし  耐性なし 
71VITL 耐性なし  耐性なし  耐性なし 
73CSTA 耐性なし  耐性に寄与  耐性なし 
74P 耐性なし  耐性に寄与  耐性なし 
77I 耐性なし  耐性なし  耐性なし 
85V 耐性なし  耐性なし  耐性なし 
88D 耐性なし  耐性に寄与  耐性なし 
93L 耐性なし  耐性なし  耐性なし 
インテグラーゼ阻害薬(INSTI)
  RAL EVG DTG BIC
66AI 軽度耐性  高度耐性  耐性なし  耐性なし 
66K 高度耐性  高度耐性  軽度耐性  軽度耐性 
74M 耐性なし  耐性なし  耐性なし  耐性なし 
92Q 中等度耐性  高度耐性  耐性に寄与  耐性に寄与 
92G 軽度耐性  中等度耐性  耐性なし  耐性なし 
97A 耐性に寄与  耐性に寄与  耐性なし  耐性なし 
121Y 中等度耐性  中等度耐性  耐性に寄与  耐性に寄与 
138AK 軽度耐性  軽度耐性  耐性に寄与  耐性に寄与 
140AS 中等度耐性  中等度耐性  耐性に寄与  耐性に寄与 
143RHC 高度耐性  耐性に寄与  耐性なし  耐性なし 
147G 耐性なし  高度耐性  耐性なし  耐性なし 
148HR 高度耐性  高度耐性  軽度耐性  軽度耐性 
148K 高度耐性  高度耐性  中等度耐性  中等度耐性 
155H 高度耐性  高度耐性  耐性に寄与  耐性に寄与 
263K 軽度耐性  中等度耐性  軽度耐性  軽度耐性 

  高度耐性

  中等度耐性

  軽度耐性

  耐性に寄与

  耐性なし

  感受性増加

パネル左端に示すアミノ酸変異が生じた場合に、パネル上端の抗HIV薬に対してどのような耐性が生じるかを色別に表したもの。Stanford大学のHIV Drug resistance databaseをもとに作成。

図 VI-6 変異の蓄積による表現型耐性検査結果(IC50比)の変化の一例
NRTI
  AZT TDF ABC 3TC
184V 0.5 0.5 3.1 200
65R 0.5 1.8 2.4 8.7
65R, 184V 0.4 1.2 8.4 200
41L, 215Y 12 1.3 2.0 2.0
41L, 215Y, 184V 6.0 1.1 5.1 200
41L, 215Y, 210W 164 3.1 3.1 2.8
41L, 215Y, 210W, 184V 18 1.6 6.5 200
PI
  NFV rtv LPV ATV
50L 0.3 0.3 0.3 6.0
50L, 82A 0.7 0.7 0.7 12
46I, 50L, 82A 1.1 2.0 1.5 19

 獲得した変異のパターンから薬剤耐性のレベルを評価する方法に関しては、いくつかの研究グループが独自のアルゴリズムを公開している。

  1. スタンフォード薬剤耐性データベース(https://hivdb.stanford.edu/
  2. The Agence Nationale de Recherche sur le SIDA(ANRS)薬剤耐性評価
    http://www.hivfrenchresistance.org/2017/Algo2017-HIV1.pdf
  3. Rega Institute in Leuven, Belgium の研究グループが開発したものなどである。これらの中で、比較的簡便で広く用いられているスタンフォード薬剤耐性データベースの使い方について述べる。
手順1
https://hivdb.stanford.edu/にアクセスする。トップページ右上の「HIVdb Program」をクリックすると、薬剤耐性解析のページに切り替わる。
手順2
アミノ酸配列のプルダウンメニューを操作して、どのアミノ酸がどのように変化したかを入力する。
手順3
画面右下にある「Analyze」をクリックすると、どの薬剤に耐性でどの薬剤に感受性があるかを表示する結果画面が現れる。

 (薬剤耐性検査の詳細については、日本医療研究開発機構 エイズ対策実用化研究事業「国内流行HIV及びその薬剤耐性株の長期的動向把握に関する研究」班による「HIV薬剤耐性検査ガイドラインver.10」19)も参照していただくとよい。https://www.hiv-resistance.jp/resistance04.htmからダウンロード可能)

 以上のことを参考に、耐性検査の結果から効果が期待できる3つ以上の抗HIV薬を選択しSalvage治療を行うことになる。その判断にはある程度の経験と知識が必要であり、自信を持った選択が出来ない場合は経験豊富な医師と相談しつつ決定するのがよい。また、抗ウイルス効果を優先させた選択になるので、Salvage治療で選択されるARTメニューは初回治療に比べ飲みにくい組み合わせにならざるを得ない。耐性HIVが出現する背景には服薬率の低下が密接に関連しているので、100%近い服薬率が得られる確信がなければ安易にSalvage治療に変更すべきでない。

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