VI治療失敗時の薬剤変更

4.多剤耐性症例に対するSalvage療法

 多剤を併用する抗HIV療法の臨床導入以前に単剤投与の治療歴がある症例や、度重なる治療失敗によって多剤耐性となった症例には、新規薬剤による治療が必要となる。新規のPIであるDarunavir(DRV; プリジスタ®)やTipranavir(TPV)、新規のNNRTIであるEtravirine(ETR; インテレンス®)、インテグラーゼ阻害薬であるRaltegravir(RAL; アイセントレス®)やDolutegravir(DTG; テビケイ®)、融合阻害薬であるEnfuvirtide(ENF; T-20)、CCR5阻害薬であるMaraviroc(MVC; シーエルセントリ®)などの投与が考えられる。日本においては、DRV・ETR・RAL・DTG・MVCが承認済みで、ENFが研究班(厚生労働省「エイズ治療薬研究班」研究代表者:東京医科大学 福武勝幸教授)を通じて入手可能、TPVは公的な入手ルートがないという現状である。既存の抗HIV薬に対し多剤耐性を獲得したHIVに対しては、これらの新薬を取り入れたSalvage療法が唯一の治療法であるが、このようなSalvage療法においても複数の有効な薬剤を組み合わせることが肝要で、有効な薬剤を一剤だけ加えた治療を行ってしまうと、薬剤耐性の出現を招いて治療の選択肢を狭める結果となりかねないことに注意を要する。

 DRVは、HIVプロテアーゼの活性中心近傍のアミノ酸主鎖に結合するため、強力な抗HIV作用を示し、耐性発現もしにくいことが明らかになっている20, 21)。更にDRVは他のPIと異なり、HIVプロテアーゼの二量体化を妨げるという作用があることも報告されている22)。試験管内のウイルス実験のみならず、PIに対する主要な耐性変異を獲得した症例に対する臨床試験(POWER study)においても23)、LPV/r未使用で他剤による治療経験のある症例に対する臨床試験(TITAN study)においても24)、LPV/rを有意に上回る成績が得られている。しかし、注意しなくてはならないのは、DRVを使った抗HIV療法においても、HIV RNA量をコントロールできない症例が数多く存在するということである。POWER studyの治療成績に影響する因子の解析において、DRV耐性変異の数が増えると、HIV RNA量を検出限界以下にコントロールできる割合が減ってくることが示されている(表VI-2)。DRV耐性変異が1個以下であれば56%の症例で検出限界以下に至っているが、DRV耐性変異が3個以上であれば26%の症例でしか検出限界以下に至っていない。このことはすなわち、効かなくなったPIをダラダラと継続投与していると、プロテアーゼ領域に耐性変異が蓄積していき、その後にDRVによるSalvage療法を導入しても、十分な効果をもたらさない可能性を示唆している。また、バックグラウンドの治療薬のうち、有効なものが二つ以上あれば56%の症例で検出限界以下に至っているが、有効なものが一つもない場合、20%の症例でしか検出限界以下に至っていない。このことは、ウイルス学的に失敗した際に、有効な薬剤を一剤だけ加えても十分な効果が得られないことを示しており、Salvage療法には少なくとも二剤以上の有効な薬剤が必要ということである(AI)。従って、既存の治療薬全てが無効になったと考えられる症例に対しては、DRVのみを既存の治療薬と組み合わせるのではなく、ETRやRALも積極的に加え、複数の有効な治療薬を組み合わせないと、DRVの耐性変異の数を増やすだけといった益々選択肢を狭めるだけの治療になりかねない。

VI-2 VL<50コピー/mLに至った割合(POWER study)
Enfuvirtide使用の有無
  DRV/r Control PI P
N n (%) N n (%)
有,naïve 36 21(58%) 35 4(11%) <0.0001
有,non-naïve 13 2(15%) 15 1(7%) 0.5
61 27(44%) 70 7(10%) <0.0001
Primary PI mutations at Base Line
  DRV/r Control PI P
N n (%) N n (%)
≦1 9 6(67%) 16 3(19%) 0.02
2 46 20(44%) 31 5(17%) 0.02
≧3 55 24(44%) 74 4(5%) <0.0001
DRV-associated mutations at Base Line
  DRV/r Control PI P
N n (%) N n (%)
≦1 50 28(56%) 53 9(17%) <0.0001
2 33 15(46%) 30 2(7%) 0.0004
≧3 27 7(26%) 36 1(3%) 0.006
Active ARVs in Optimised Background Regimen
  DRV/r Control PI P
N n (%) N n (%)
0 25 5(20%) 18 0(0%) 0.04
1 34 17(50%) 40 1(3%) <0.0001
≧2 48 27(56%) 60 10(17%) <0.0001

 ETRは、EFVとNVPに対し高度耐性を賦与する逆転写酵素のK103N変異を持つHIV-1に対しても有効性が期待できる新たなNNRTIで、多剤耐性症例に対する臨床試験(DUET-1, 2 study)においてもその有用性が確認されている25, 26)。DUET studyの治療成績に影響する因子の解析においては、バックグラウンドの治療薬のうち有効なものがないか一つの場合、ETRの有無が大きく影響し、バックグラウンドの有効薬が二つまでは、有効薬が多い方が治療成績が良いが、バックグラウンドの有効薬が三つ以上あっても治療成績はあまり変わらなかった(図VI-7)。ただし、NNRTI耐性を持つ患者を、ETRと2剤のNRTI、PIと2剤のNRTI、の2群に分けた臨床試験では、ETR群の治療成績が劣っており、NNRTI耐性を持つ患者にはETRと2剤のNRTIだけではなく、更に有効な治療薬が必要と考えられる27)。RALは、初めて承認されたインテグラーゼ阻害薬であるが、その耐性症例に対する有用性はBENCHMRK studyで確認されている28, 29)。治療成績に影響する因子の解析では、これらの解析結果は、Salvage療法においては、新規薬剤を一剤ずつ加えるのではなく、少なくとも二剤、できれば三剤を同時に導入すべきことを示している。実際に、多剤耐性症例に対して、DRV・ETR・RALを同時に併用したTRIO studyでは、90%の患者でVLが検出限界以下になっており、未治療患者にARTを導入した際とほぼ変わらない治療成績が得られている30)。一方、RAL登場後、ウイルス学的失敗ではなく副作用の少なさや服用のしやすさという理由での治療変更例も目立っているが、LPV/r+2NRTI療法からRAL+2NRTIに切り替えたSWITCHMARK 1&2 studyでは、RALに切り替えることにより24週目の脂質パラメータの改善は認められたものの、HIV RNA量<50コピー/mLを維持できたのはLPV/r+2NRTI療法を継続した群が94.4%に対してRAL+2NRTIに切り替えた群では89.6%と、ウイルス学的効果の非劣性を証明できなかったと報告されている31)。既治療例に、副作用等の理由で薬剤変更する際には、他の薬剤との組合せが十分に強力な組合せとなっているかに細心の注意を払う必要があると考えられる。

VI-7 VL<50コピー/mLに至った割合(DUET-1&2 study)
縦軸がバックグラウンドの有効薬剤の数、横軸が割合(%)の、それぞれETR groupとPlacebo groupの二つの場合の横棒グラフ。有効薬剤の数が0のとき、ETR groupは50%弱、Placebo groupは10%弱。有効薬剤の数が1のとき、ETR groupは60%弱で、Placebo groupは30%弱。有効薬剤の数が2のとき、ETR groupは80%弱、Placebo groupは60%強。有効薬剤の数が3以上のとき、ETR groupは70%強で、Placebo groupは70%弱。
Madruga JV, et al. Lancet 2007; 370:29-38.
Lazzarin A, et al. Lancet 2007; 370:39-47.
VI-8 VL<50コピー/mLに至った割合(BENCHMRK-1&2 study)
縦軸がENFとDRVとn、横軸がPatients(%)の、それぞれRAL groupとPlacebo groupの二つの場合の横棒グラフ。ENFとDRVが+のとき、RAL groupはnが112でPatientsが89%、Placebo groupはnが65でPatientsが68%。ENFが+でDRVが-のとき、RAL groupはnが166でPatientsが80%、Placebo groupはnが92でPatientsが57%。ENFが-でDRVが+のとき、RAL groupはnが166でPatientsが69%、Placebo groupはnが92でPatientsが47%。ENFとDRVが-のとき、RAL groupはnが158でPatientsが60%、Placebo groupはnが68でPatientsが20%。
Cooper DA, et al. N Engl J Med. 2008;359:355-365.

 DTGは、未治療患者に対して強力な抗HIV-1効果を示すが32, 33)、それのみならず、既治療患者に対しても有効性が示されている34, 35)。特に、VIKING-3 study35)において、インテグラーゼ阻害薬に耐性を有する患者に対しても、投与量を倍にすること(50mg 1日1回投与 → 50mg 1日2回投与)により有効性が示されており、今後の多剤耐性症例における治療への応用にも有望である。

 MVCは初めて承認されたCCR5阻害薬であるが、そのメカニズムからCCR5指向性HIV-1にのみ有効でCXCR4指向性HIV-1には無効であるため、tropism assay等によりCCR5指向性HIV-1にのみ感染していることを確認のうえ、使用すべき薬剤である36)。日本国内でHIV薬剤耐性遺伝子検査を行っている一部の施設で、指向性遺伝子検査が可能である。指向性検査の詳細については、「国内流行HIV及びその薬剤耐性株の長期的動向把握に関する研究」班による「HIV薬剤耐性検査ガイドラインver.10」18)も参照して頂きたい。

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