VII抗HIV薬の作用機序と薬物動態

3.抗HIV薬の代謝と薬物相互作用

 プロテアーゼ阻害剤や非ヌクレオシド系逆転写酵素阻害剤は、チトクロームP450(CYP)の基質であると同時にその活性を抑制(時に促進)する作用がある。したがって、CYPで代謝される他の薬剤との相互作用が生じる(抗HIV薬同士の相互作用については前述)。そのため、プロテアーゼ阻害剤および非ヌクレオシド系逆転写酵素阻害剤と併用禁忌または注意とされる薬剤には、抗痙攣薬、抗不整脈薬、HMG-CoA還元酵素阻害剤、ワルファリンカリウム、ベンゾジアゼピン系薬など多くのものがあり、使用にあたっては最新の添付文書を熟読する必要がある。抗HIV薬に関しては、血中濃度測定が可能なものは適宜測定して薬剤濃度が治療域にあることを確認することが望ましい(4.抗HIV薬のTDMを参照)。健康食品や漢方薬として市販されているものの中にも相互作用を有するものがあり(セイヨウオトギリソウSt. Johns's Wartが代表的)、注意を要する。

(1)ヌクレオシド系逆転写酵素阻害剤(NRTI)

 本剤は主に肝臓で代謝され、その代謝物あるいは未変化体は腎臓より排泄されるため、肝機能又は腎機能の低下している患者では、高い血中濃度が持続する可能性がある。特に、腎機能障害を有する患者には注意が必要である。表VII-1-1に各薬剤の特徴と、成人の腎機能障害時に対する各NRTIの減量の標準的目安を示す。NRTIの中で抗HIV薬との併用による相互作用に注意しなければならない薬剤はTDFおよびTAFである。TDFとATVを併用すると、ATVのAUCが25%、Cminが40%減少するため、併用する場合はATV300mgをrtv100mgと共に投与することが望ましいとされている6)。また、用量調節の必要はないとされているが、TDFとLPV/rを併用すると、LPVのAUCが15%減少し、TDFのAUCは34%増加するため、腎機能障害のある患者やその既往のある患者に投与する場合は注意を要する6)。TAFについては、カテプシンA、CYP3A、P糖タンパクの基質であるため、rtvやcobiを併用する際は低用量の製剤を選択する必要があり、同様にp糖蛋白およびCYP3Aを阻害または誘導する薬剤と併用する場合には、注意を払う必要がある。

(2)非ヌクレオシド系逆転写酵素阻害剤(NNRTI)

 NNRTIはいずれもCYPにより代謝を受ける。このうちNVP, EFV, ETRはCYP3A4を誘導する。またEFVはCYP3A4を阻害し、ETRはCYP2C9・2C19を阻害し、RPVはCYP3A4の基質とされ、主にCYP3A4で代謝される(表VII-1-2)。本剤を後述するPI等CYPによって代謝される薬剤と併用した場合、薬剤によっては組み合わせた相手の薬剤の血中濃度を低下もしくは上昇させる可能性がある。

(3)プロテアーゼ阻害剤(PI)

 PIは主にCYPを阻害する働きを持ち、その主な対象となる分子種はCYP3A4である。PIの中で最も強くCYP3A4を阻害する働きを持つ薬剤はrtvである。主なPIの半減期はAPVが7.7時間、LPVが5〜6時間と短いため、rtvの強力なCYP3A4阻害作用を利用し、長時間高い血中濃度を保つことで、一日一回投与を可能としている(boosted PI)。また、CYP3A4はイトラコナゾール、クラリスロマイシン、ニフェジピン、カルバマゼピン、ジアゼパムなど多くの薬剤の酸化的代謝に関与する酵素である。PIを使用した場合、同じ分子種で代謝される併用薬の血中濃度が上昇する可能性があるため注意を要する。rtvは現在国内で使用されている医薬品の中で、CYP3A4に対する阻害作用が最も強い薬剤と考えられることから、その相互作用には、特に注意を払う必要がある。また、PIは血漿蛋白結合率も高く、P糖蛋白の基質にもなることから注意が必要である。STB(スタリビルド配合錠®)、GEN(ゲンボイヤ配合錠®)およびPCX(プレジコビックス配合錠®)に含まれるcobiにはCYP3A4を選択的に阻害する作用を有していることから、rtv同様、相互作用には注意を払う必要がある。

(4)インテグラーゼ阻害剤(INSTI)

 RALはCYPにより代謝を受ける可能性は低く(in vitro)、主にUDP-グルクロノシルトランスフェラーゼ(UGT)1A1により代謝を受ける(in vitro, in vivo7)。PIやNNRTIとは異なり薬物相互作用の問題は少ない。ATVはUGT1A1阻害剤であるが、RALと併用する場合、用量調節の必要はない。EVGは主にCYP3A4で代謝される8)。CYP3A4を選択的に阻害するcobiを含む配合剤のため、CYP3A4を阻害または誘導する薬剤と併用する場合には、注意を払う必要がある。また、DTGは主にUGT1A1で代謝されるが一部はCYP3A4を介し代謝される。BICはCYP3A4とUGT1Aの両者で代謝される9)

(5)CCR5阻害剤

 MVCはCYP3A4及びP糖蛋白の基質であり、in vitroでP糖蛋白を阻害する(IC50:183μM)。ヒトにおける試験及びヒト肝ミクロソームと発現酵素系ミクロソームにおけるin vitro試験から、MVCは主にCYPを介し、HIV-1に対する効果を持たない代謝物に変換されることが示されている。また、in vitro試験から、MVCの主な代謝酵素はCYP3A4であり、遺伝的多型を示すCYP2C9、CYP2D6、及びCYP2C19の代謝への寄与は小さいことが示されている。併用薬がMVCの薬物動態に及ぼす影響本剤はCYP3A4及びP糖蛋白の基質であり、これらの酵素もしくはトランスポーターを阻害する薬剤及び誘導する薬剤によりMVCの薬物動態が変化する可能性がある。CYP3A4又は、CYP3A4及びP糖蛋白を阻害する薬剤のケトコナゾール、rtv, LPV/r, ATV, 及びDRVは、いずれもMVCのCmax及びAUCを増大させた。CYP3A4誘導薬剤のEFV、ETR及びRFPはMVCのCmax及びAUCを低下させた。MVCをCYP3A阻害剤又はCYP3A誘導剤と併用する場合には、用量調整の必要があるため注意が必要である5)

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