VII抗HIV薬の作用機序と薬物動態

4.抗HIV薬のTDM

 近年、第一選択薬として使用される抗HIV薬は、いくつかの組み合わせに集約される傾向にあるものの、抗HIV療法と日和見感染症治療を同時に施行する場合や、サルベージ治療に用いられる抗HIV薬の組み合わせは多様である。抗HIV薬の中でもNNRTIとPIはその薬物動態が相反しており、相互作用の強さは薬剤の組み合わせだけでなく、個体間によってもその動態が大きく変動する可能性がある。血中濃度測定の第一番目の意義は、治療効果の確認である。服薬アドヒアランスが十分であるにも関わらずHIV RNA量の再上昇があった場合、服薬開始後にHIV RNA量の十分な低下や低下速度に問題がある場合等があげられる。副作用等の有害事象が出現した場合もTDMの対象となる。

 抗HIV療法では多剤併用療法が行われることに加え、他の薬剤を併用する機会も数多く見られることから、治療効果はもちろんのこと、安全性の面からも、個々の薬物動態を十分に把握し、相互作用を理解しておくことが重要である。治療の失敗が許されないARTの特性を考えあわせると、治療は慎重に行われるべきであり、治療をより確実なものとするためにも、血中濃度測定を治療の選択肢として考慮すべき場合がある。

(1)血中濃度測定方法

 抗HIV薬の血中濃度測定については、日本医療研究開発機構エイズ対策実用化研究事業「抗HIV薬の薬物動態に関する臨床研究(http://www.psaj.com/)」研究班を経由して費用の負担なしで測定を依頼することができる。ホームページにアクセスし、ID・パスワードを取得後、必要事項と測定希望薬剤を入力する。

(2)血中濃度測定が可能な抗HIV薬

 2019年3月現在、測定可能な薬剤は、PIではDRV, ATV, LPV, FPV, rtv, EVGやDRVのブースターとして用いられるcobi, NNRTIではEFV, NVP, ETR, RPV, INSTIではRAL, EVG, DTG, CCR5阻害剤ではMVCの測定が可能である。

(3)ヌクレオシド系逆転写酵素阻害剤(NRTI)

 NRTIの治療効果は活性型の細胞内濃度と相関する事が明らかであるが、治療効果と血中濃度との関連については、未だ明らかではない。NRTIは細胞内に入ってリン酸化された後に効果を発揮する一種のプロドラッグである。細胞側のリン酸化酵素によって三リン酸化体に変換され抗ウイルス効果を示すため、細胞内リン酸化酵素活性によってその効果が左右されることになる。治療効果を考えたとき細胞内における三リン酸化体の細胞内濃度が問題となるため、血中濃度をコントロールし臨床的に応用する試みは行われていない。TDFおよびTAFは腸管から吸収後、TDFは殆どが、TAFはその一部がテノホビル(TFV)として血漿中に存在する。TFVは腎臓の尿細管において細胞障害を引き起こすことがあり、尿細管の機能障害を来している場合、尿細管の機能が正常な場合と比較して、TFV濃度が高値を示すことが示唆されている10)

(4)非ヌクレオシド系逆転写酵素阻害剤(NNRTI)

 EFVは服用後数時間が血中濃度も高く、ふらつきなどの精神神経系副作用が高頻度に発現するため眠前に投与することが推奨されている。薬剤の有効性を予測するためには、薬剤の投与前血中濃度(トラフ値)での評価が有用であるが、EFVの場合、特に外来患者における服用前すなわち眠前の採血は困難である。EFVの血中濃度を評価する場合は、投与12時間前後で採血を行うことが推奨されている。EFV血中濃度と精神神経系副作用との関係については、4,000 ng/mL(12,700 nM)を超えると精神神経系副作用の発現頻度が有意に上昇することが報告されているが11)、必ずしも相関しないとする報告もあり12)、その評価は分かれている。

 EFVの血中濃度はCYP2B6の遺伝子多型と関係することが示されており、*6*6の多型を持つ患者の血中濃度はNon-*6,*6 heterozygoteと比較して2〜3倍高値であったことも報告されている13)

 RPVは胃内のpH上昇により、吸収が低下するため、強力に胃酸分泌を抑えるプロトンポンプインヒビターとの併用は禁忌である。H2遮断剤の投与はRPV投与の12時間以上前または4時間以上後に投与することが推奨されている。

(5)プロテアーゼ阻害剤(PI)

 現在の抗HIV療法では、rtvおよびcobiのCYP3A4およびp糖タンパクに対する強力な阻害作用を積極的に利用し、併用するPIの血中濃度を高め、しかも長く持続させるためのブースターとして、少量のrtv(100 mg程度)もしくはcobi (150 mg)を併用する方法が用いられている。ブースターを用いることで、併用するPIの治療効果を高め、血中濃度を長く維持できるので、投与量や服用回数を減らすことが可能となる。

 あらかじめrtvが配合されている薬剤にカレトラ®(LPV/r)、cobiが配合されている薬剤にプレジコビックス®(PCX)がある。PIの血中濃度と薬剤耐性との間には、IQ(Inhibitory Quotient = Ctrough / IC50)値が血中濃度と抗ウイルス効果に影響するとされ、IQ値が大きいほど抗ウイルス効果は強く、長期に渡って効果が持続するとされている。しかし、血中濃度が高いと副作用の問題も発生するため、すべてのPIの血中濃度を高く保つことは不可能である。LPVはrtvと併用することによって血中濃度を比較的高く保っても副作用が発現しにくいとされ、IQ値を一定のレベル以上で保つことが出来る薬剤である。ATVは胃内のpHにより溶出が大きく変化する。血中濃度には個人差があることも報告されている14)ことから、ATVは血中濃度モニタリングを行いながら、慎重に治療を進める必要がある薬剤である。強力に胃酸分泌を抑えるプロトンポンプインヒビターとの併用は禁忌である。

(6)インテグラーゼ阻害剤(INSTI)

 RALの臨床試験(フェーズII、III)において、RALの血中濃度が治療効果に及ぼす影響は少なかったとされているが15)in vitroにおいて濃度相関を示したとする報告もある16)。また、DTGについては実臨床において、血中濃度高値と精神神経系の有害事象の関連が示唆されており17)、今後の研究結果が待たれる。

(7)CCR5阻害剤

 MVCをCYP3A阻害剤又はCYP3A誘導剤と併用する場合は、用量調整が必要とされている。例えばPI、イトラコナゾール、クラリスロマイシン等の強力なCYP3A阻害剤と併用する場合、MVCの用量は150mgを1日2回へ減量する。NVPやNRTIと併用する場合MVCの用量は300mgを1日2回とする。EFV、ETR、RFP等の強力なCYP3A誘導剤と併用する場合MVCの用量は600mgを1日2回へ増量することとされている。MVCは併用薬の影響を大きく受ける薬剤であり、日本人での薬物動態は不明である。本剤を投与する場合は血中濃度をモニタリングすることが望ましい。

(8)目標(参考)とする血中濃度

 以前のDHHSガイドラインに示されていた、HIV-1野生株に対する目標トラフ濃度を表Ⅶ-2-1に、DRV(1200mg 分2)、ETRおよびRALについては、過去の臨床試験で測定されたトラフ濃度の中央値を表Ⅶ-2-2に示す。また、RPV、DRV(800mg分1)、RAL、EVGおよびDTG(50mg 分1)については、報告されている日本人HIV-1感染者を対象としたトラフ濃度の中央値18-22)を表Ⅶ-2-3に示す。

表VII-2-1 HIV-1野生株に対する目標トラフ濃度
薬剤名 濃度(ng/mL)
APV(FPV) 400
IDV 100(130nM)
LPV 1,000
NFV 800
RTV 2,100
SQV 100-250
ATV 150
EFV 1,000(3,170nM)
NVP 3,000
MVC >50
表VII-2-2 過去の臨床試験で測定されたトラフ濃度の中央値(範囲)
薬剤名 濃度(ng/mL)
DRV(1200mg/分2) 3,300(1,255-7,368)
ETR 275(81-2,980)
RAL 72(29-118)
表VII-2-3 日本人を対象とした検討で報告されているトラフ値の中央値
薬剤名 症例数 中央値(ng/mL)
RPV 33 66
DRV(800mg/分1) 70 1,587
RAL 114 170
EVG 50 410
DTG(50mg/分1) 107 1,060

PAGE TOP

アンケートにご協力ください。

このページは役に立ちましたか?

コメント