VIII抗HIV薬の副作用

8.乳酸アシドーシス

 乳酸アシドーシスは時に致死的となる代謝障害で、ヌクレオシド系逆転写酵素阻害剤がミトコンドリアのDNAポリメラーゼγ活性を阻害するために発症すると考えられる。図VIII-3に示すようにddC、ddI、d4Tの3剤(いずれも現在は発売中止)が比較的強いミトコンドリア障害を起こすことが知られている68)。しかし、AZT単剤使用者にも乳酸アシドーシスの報告がみられる。乳酸アシドーシスは1000患者・年あたり1.3人程度とまれな合併症である。しかし、無症状の高乳酸血症はART施行中の患者には比較的多く、John MらはART施行中のHIV感染者の18.3%で乳酸値が2.5〜5.0mmol/L(正常値0.3〜1.9mmol/L)であったと報告している69)

 表VIII-2に、文献的に報告された90例の乳酸アシドーシスの臨床症状を示す70)。これからわかるように、主な症状は悪心、嘔吐、腹痛などの非特異的なものが多く、軽〜中等度の肝機能障害を高率に認める。乳酸値の上昇が軽度の場合、「無症状高乳酸血症」のHIV感染者が感冒等の他の原因で体調不良を訴えているのか、本当に乳酸アシドーシスなのかの判断に苦慮する場合がある。乳酸値が軽度上昇であれば(5mmol/L未満)、ARTを継続しながら慎重に経過観察することも可能であるが、乳酸値が高度に上昇していれば(5mmol/L以上)直ちにARTを中止することも考慮する。ただし、乳酸値が5mmol/L未満でも乳酸アシドーシスの発症はあり得る。その他、急速に進行するGuillain-Barre症候群様の末梢神経障害(しびれ、筋力低下)を伴う乳酸アシドーシスの報告もある71)

 治療は、ARTの中断と対症療法である。thiamine、riboflavin、coenzyme Q10、vitamins C、L-carnitineなどの投与を行ったとする報告があるが、有効性は明確でない72)。回復後にARTを再開する場合は、比較的ミトコンドリア障害が少ないとされる逆転写酵素阻害剤であるABC, TDF, TAF, 3TC, FTCなどを選択し慎重に経過を観察するか、あるいは逆転写酵素阻害剤を含まない多剤併用療法を検討する。

VIII-3 ヌクレオシド系逆転写酵素阻害剤のミトコンドリアに対する影響
縦軸がミトコンドリアDNA(%)で横軸がNRTI濃度(μM)のそれぞれddC、ddI、d4T、ZDV、3TC、ABC、TDFの折れ線グラフ。ddCのミトコンドリアDNAは、NRTI濃度が0.1μMのとき100%、0.3μMのとき約50%強、3μMと30μMと300μMのときはいずれも0%。ddIのミトコンドリアDNAは、NRTI濃度が0.1μMのとき100%、0.3μMのとき120%、3μMのとき80%強、30μMのとき約10%、300μMのとき0%。d4TのミトコンドリアDNAは、NRTI濃度が0.1μMのとき100%、0.3μMのとき80%強、3μMのとき80%弱、30μMのとき80%弱、300μMのとき約50%。ZDVのミトコンドリアDNAは、NRTI濃度が0.1μMのとき100%、0.3μMのとき80%強、3μMのとき約90%強、30μMのとき100%弱、300μMのとき100%強。3TCのミトコンドリアDNAは、NRTI濃度が0.1μMと0.3μMのとき100%、3μMのとき100%弱、30μMのとき100%弱、300μMのとき100%弱。ABCのミトコンドリアDNAは、NRTI濃度が0.1μMと0.3μMのとき100%、3μMのとき100%弱、30μMのとき120%弱、300μMのとき120%強。TDFのミトコンドリアDNAは、NRTI濃度が0.1μMのとき100%、0.3μMのとき100%弱、3μMのとき約90%、30μMのとき約90%強、300μMのとき100%。
In vitroにおいて骨格筋細胞にNRTI各薬剤を投与し、ミトコンドリアDNAに及ぼす影響を検討したもの。(McComsey et al. J Acquir Immune Defic Syndr. 37:S30, 2004より作成)
VIII-2 乳酸アシドーシス患者90例の臨床所見
  中央値 範囲 正常値
乳酸(mmol/L) 10.5 2.4-168.5 0.7-1.2
pH 7.2 6.67-7.42 7.35-7.45
Bicarbonate (mmol/L) 8 1.2-26 24-29
Anion gap (mEq/L) 25.5 10.0-42.0 8.0-12.0
症状 人数(%)
吐き気 45(53%)
嘔吐 44(52%)
腹痛 38(45%)
体重減少 19(22%)
脱力感 19(22%)
不眠 19(22%)
食欲不振 16(19%)
多呼吸 13(15%)
下痢 8(9%)
倦怠感 7(8%)
腹部膨満感 5(6%)
意識障害 2(2%)
その他 8(9%)
軽~中等度の肝障害 65%(UNL 1.5-10.7)

Arenas-Pinto et al. Sex Transm Infect. 79:340, 2003より作成

PAGE TOP

アンケートにご協力ください。

このページは役に立ちましたか?

コメント