IX免疫再構築症候群

3.主な免疫再構築症候群の病態

 Müllerら11)は54のコホート研究をメタ解析した結果、抗HIV治療を開始した患者13,103名中1,699名(13.0%)に免疫再構築症候群を発症したと報告している。免疫再構築症候群の疾患別の発症率も解析しており、表IX-5に示す通りである。わが国では、1997〜2003年および2007〜2011年に抗HIV治療を受けた症例における免疫再構築症候群の発症率に関する2回の調査があり、それぞれ8.7%12)と7.6%である(表IX-6)。2007〜2011年に抗HIV治療を受けた症例での発症率は施設によって0〜21.3%と差があり(図IX-1)、診療している症例背景の違いなどが影響する可能性がある。例えば、日和見感染症を起こした症例に限って免疫再構築症候群の発症率をみると、2〜63%と高率になる11, 13-19)(表IX-6)。また、国によっても免疫再構築症候群の発症率には差があり(表IX-7)9)、わが国の発症率は米国と近いものである。

 わが国で頻度の高い免疫再構築症候群としての疾患は、帯状疱疹、非結核性抗酸菌症、サイトメガロウイルス感染症、ニューモシスチス肺炎、結核症、カポジ肉腫などであり、最近はB型肝炎も増えている(図IX-2)。以下には、厚生労働省「HAART時代の日和見合併症に関する研究」班(主任研究者:安岡 彰)の調査結果から得られた主な疾患の臨床像8)について紹介する。

表IX-5 免疫再構築症候群の発症率に関するメタ解析結果
IRISの種類 報告の発症率 観察症例数 IRIS発症率(95%CrI*)
結核症 2~43% 17~1731例 15.7%(9.7-24.5)
クリプトコックス髄膜炎 2~50% 10~412例 19.5%(6.7-44.8)
サイトメガロウイルス網膜 18~63% 10~43例 37.7%(26.6-49.4)
帯状疱疹 12% 115例 12.2%(6.8-19.6)
カポジ肉腫 7% 29~150例 6.4%(1.2-24.7)
進行性多巣性白質脳症 8~23% 12~53例 16.7%(2.3-50.7)
何らかのIRIS 4~39% 23~2330例 16.1%(11.1-22.9)
表IX-6 わが国における免疫再構築症候群の発症率
  1997~2003年調査
(安岡班)
2007~2011年調査
(照屋班)
調査施設数 8施設 12施設
ART実施数 2,018件 3,216件
IRIS発症数 176件 244件
IRIS発症率 8.7% 7.6%
表IX-7 各国での免疫再構築症候群の発症率
調査国 対象患者数(名) 発症率(%) 報告年
米国 196 11(paradoxical IRIS) 2012年
米国 2,610 10.6(unmasking IRIS) 2012年
メキシコ 390 27 2011年
インド 97 35 2012年
モザンビーク 136 26.5 2011年
南アフリカ 498 22.9 2012年
IX-1 施設毎での免疫再構築症候群の発症率
施設AからLまでの免疫再構築症候群の発症率を表した横棒グラフ。施設Aは4.7%、ART症例数は817例。施設Bは8.7%、ART症例数は813例。施設Cは10.8%、ART症例数は472例。施設Dは3.3%、ART症例数は400例。施設Eは7.8%、ART症例数は205例。施設Fは15.6%、ART症例数は141例。施設Gは9.9%、ART症例数は121例。施設Hは7.7%、ART症例数は65例。施設Iは21.3%、ART症例数は61例。施設Jは7.1%、ART症例数は56例。施設Kは0%、ART症例数は42例。施設Lは4.3%、ART症例数は23例。各施設の平均値は7.6%となり、合計ART症例数は3216例となった。
IX-2 わが国で免疫再構築症候群としてみられた疾患
縦軸が疾病で、横軸が疾患比率の1997〜2003年調査(1)と2007〜2011年調査(2)を比較した2つの横棒グラフ。(1)が26.1%で、(2)が17.9%。CMV感染症は(1)が19.9%で、(2)が16.7%。ニューモチスシス肺炎は(1)が7.4%、(2)が14.3%。結核症は(1)が6.8%で(2)が12.7%。非結核性抗酸菌症は(1)が21%、(2)が11.2%。B型肝炎は(1)が1.7%、(2)が5.2%。カポジ肉腫は(1)が4.5%、(2)が4.4%。クリプトコックス症は(1)が1.7%、(2)が4%。進行性多巣性白質脳症は(1)が2.8%、(2)は3.6%。自己免疫疾患は(1)が1.7%、(2)が2%。単純ヘルペス感染症は(1)が2.3、(2)は0.4%。(1)はn=176で、(2)はn=251。

(1)帯状疱疹

 帯状疱疹は、他の疾患に比べてCD4数が比較的高い症例でも発症することがある。病型は、59例中56例が限局型であるが、2例が汎発型、1例が限局型に髄膜炎を合併しており、時に重症型の帯状疱疹となることがある。臨床症状は、一般の帯状疱疹と類似しているが、限局型の20%の症例で38℃以上の発熱を伴っている点は免疫再構築症候群の特徴かもしれない。帯状疱疹後神経痛は、6例に認めている。

(2)非結核性抗酸菌症

 非結核性抗酸菌症の病型は、播種型、リンパ節炎型、肺感染症型がほぼ同頻度で認められる。肺感染症型の頻度も高いことは、注意する必要がある。

 播種型・リンパ節炎型では、38℃以上の発熱があり、播種型の1/3の症例で消化器症状、リンパ節炎型の半数の症例で疼痛を伴っている。肺感染症型の1/2の症例では自覚症状が乏しく、胸部画像検査が重要である(表IX-8)。

 菌種が同定できた症例では、1例がMycobacterium kansasii、他の症例はMycobacterium avium complex(MAC)であった。

表IX-8 免疫再構築症候群としての非結核性抗酸菌症の病型・症状
病型 症状
播種型
(14例)
リンパ節炎
(13例)
肺感染症
(13例)
発熱38℃未満 1例 2例 3例
  38℃以上 13例 9例 2例
盗汗 4例 1例 0例
疼痛 4例 6例 1例
消化器症状 5例 1例 1例
呼吸器症状 0例 0例 6例

(3)サイトメガロウイルス感染症

 サイトメガロウイルス感染症の病型は、33例中26例が眼病変であるが、網膜炎だけでなく、硝子体炎なども認める。半数の症例では視覚障害を自覚しているが、自覚症状がないことも多く、抗HIV治療開始後にも定期的な眼科フォローが必要である。

 眼病変以外に、腸炎(3例)、肝炎(2例)、肺炎(2例)の病型もあり、注意が必要である(表IX-9)。

表IX-9 免疫再構築症候群としてのサイトメガロウイルス感染症の病型・症状
病型 症状
疾患
(26例)
腸炎
(3例)
肝炎
(2例)
肺炎
(2例)
発熱38℃未満 3例 0例 2例 1例
  38℃以上 1例 2例 0例 1例
視覚障害 13例 0例 0例 0例
疼痛 1例 1例 0例 0例
消化器症状 1例 3例 1例 0例
呼吸器症状 0例 0例 0例 2例
網膜炎:19例/ 硝子体炎:7例/ 網膜浮腫:3例/ ぶどう膜炎:1例

(4)ニューモシスチス肺炎

 ニューモシスチス肺炎の病型は、全例が肺炎である。38℃以上の発熱があり、咳嗽、呼吸困難などの呼吸器症状を伴っている。

 気管支肺胞洗浄(BAL)を実施した症例では、グロコット染色でPneumocystis jiroveciiのシストを認めたり、PCR法でDNAを検出したりすることができたが、免疫再構築症候群では病原体を証明できないこともある。血清β-Dグルカン値は上昇することが多く、補助診断に有用である。

(5)結核症

 結核症の病型は、肺感染症型、リンパ節炎型、播種型、胸膜炎型が同頻度でみられる。いずれの病型でも38℃以上の発熱を認めることが多く、リンパ節炎型では疼痛を伴うことが多い(表IX-10)。

 培養検査、PCR法、生検組織診断、ツベルクリン反応を用いて診断する。免疫再構築症候群の診断におけるインターフェロンγ放出試験(QuantiFERON Gold、T-SPOT)の有用性については未だ明らかになっていない。

表IX-10 免疫再構築症候群としての結核症の病型・症状
病型 症状
感染症
(3例)
リンパ節炎
(3例)
胸膜炎
(2例)
播種型
(2例)
発熱38℃未満 0例 0例 0例 0例
  38℃以上 2例 2例 2例 2例
盗汗 0例 0例 0例 1例
疼痛 0例 2例 0例 1例
消化器症状 0例 1例 0例 0例
呼吸器症状 2例 0例 0例 1例
倦怠感 0例 0例 0例 1例

PAGE TOP

アンケートにご協力ください。

このページは役に立ちましたか?

コメント