X結核合併症例での抗HIV療法

3.HIV感染症合併結核の治療上の問題点

 HIV感染症合併結核の治療を行う上で注意すべき点としては、主に以下の3点が挙げられるが、両者の治療を並行して行う場合の薬剤の多さが患者の負担になる場合もある。

(1)薬剤の副作用が起こりやすい

 HIV感染症では薬剤の副作用が起こりやすく、細心の注意を払う必要がある。特に、抗結核薬では皮疹と肝障害の副作用が多い。抗結核薬と抗HIV薬を同時に内服する場合は両者の副作用を生じる可能性が高く、原因薬剤の同定が困難となるだけでなく、すべての治療を中断せざるを得ない状況に追い込まれることがある。

(2)rifamycin系薬剤と抗HIV薬との間に薬剤相互作用がある

 rifamycin系薬剤(rifampicin(RFP)、rifabutin(RBT)、rifapentine)は肝臓においてcytochrome P450(特にCYP3A4)の誘導作用が強い。CYP3A4により代謝されるプロテアーゼ阻害薬や非核酸系逆転写酵素阻害薬の血中濃度は、rifamycin系薬剤と併用することにより著しく低下し、抗HIV作用は低下する。したがって、プロテアーゼ阻害薬(PI)および非核酸系逆転写酵素阻害薬とrifamycin系薬剤との併用は注意が必要である。

 結核の治療中に上記2系統の抗HIV薬を開始する場合は、RFPよりもCYP3A4の誘導が弱いRBTを用いるほうが抗HIV薬の選択肢は多い。efavirenz(EFV)はRFPとの併用が可能である7)。RFPをベースにした結核治療にEFVをベースにしたARTを行った場合、副作用も少なく、HIVの十分な抑制が可能である8)。体重が60kg以上では800mg/日に増量すべきであるという意見があったが、最近の研究ではRFPの影響は見られずEFVの投与量は600mg/日でよいとされている8, 9)

 RFPをPIと併用するとPIの血中濃度は90%以上低下してしまうので、両者の併用は禁忌である。RBTをPIと併用した場合、ritonavirブーストPIではPIの血中濃度はほとんど影響を受けないが、RBTの血中濃度が上昇し、RBTの副作用(ぶどう膜炎、好中球減少、肝機能障害)が起こりやすくなる。そこでRBTを150mg/日あるいは300mg/週3回に減量する8)。しかし、RBTの副作用については注意深い経過観察を行わなければならない。

 インテグラーゼ阻害薬であるraltegravir(RAL)は主にUDP-glucuronosyl transferase 1A1(UGT1A1)によるグルクロン酸抱合によって代謝される。RFPは強力なUGT1A1誘導剤であり、併用するとRALの血漿中濃度が低下する可能性がある。RFPと併用する場合、RALを倍量すなわち800mg1日2回投与にするとAUC、Cmaxは維持されるので併用禁忌とはならないが、トラフ値が低値となる可能性があることを知っておかなければならない。RBTとRALの併用は可能であり、RALは常用量でよい。同様にdoltegravir(DTG)もRFPと併用の際には、50mg1日2回投与に増量し、RBTとの併用時には常用量である50mg 1日1回投与である。RFPおよびRBTはelvitegravirの血中濃度を低下させてしまうので、併用禁忌である。

 テノホビルアラフェナミド(TAF)はP糖蛋白(P-gp)の基質であり、P-gpの誘導作用をもつ薬剤との併用により吸収が阻害されるので注意が必要である。添付文書上はRFPは併用禁忌、RBTは併用注意となっているが、DHHSでは併用は勧められないとなっている9)

 Rifamycin系薬と抗HIV薬の併用方法については、表X-1を参照されたい。

表X-1 抗HIV薬とrifamycin系薬剤との併用
プロテアーゼ阻害薬(PI)
抗HIV薬 Rifabutin(RBT)との併用 Rifampicin(RFP)との併用
RTVブーストあり
ATV+rtv RBT 150mg1日1回
または300mg週3回
不可
DRV+rtv 不可
FPV+rtv 不可
LPV/r 不可
SQV+rtv 不可
RTVブーストなし
ATV RBT 150mg1日1回、または300mg週3回 不可
非核酸系逆転写酵素阻害薬(NNRTI)
抗HIV薬 Rifabutin(RBT)との併用 Rifampicin(RFP)との併用
EFV RBT 450mg‒600mg1日1回 または600mg週3回(PIと併用しないとき) EFV 600mg1日1回(通常量)
ETR

ETRおよびRBT(300mg)の投与量調整する必要なし。

ETRをRTVブーストPIと併用するときは併用は禁忌

不可
NVP NVPおよびRBTの投与量調整する必要なし 不可
RPV RPV 50mg1日1回 不可
インテグラーゼ阻害薬
抗HIV薬 Rifabutin(RBT)との併用 Rifampicin(RFP)との併用
RAL RALおよびRBTの投与量調整する必要なし RAL 800mg1日2回
EVG 不可 不可
DTG DTGおよびRBTの投与量調整する必要なし DTG 50mg1日2回
CCR5受容体拮抗薬
抗HIV薬 Rifabutin(RBT)との併用 Rifampicin(RFP)との併用
MVC

強力なCYP3A4 inducerやinhibitorとの併用が無いときは、MVC 300mg1日2回。

強力なCYP3A4 inhibitorとの併用時は、 MVC 150mg1日2回。

原則不可。やむをえず使用する場合はMVC 600mg1日2回。

強力なCYP3A4 inhibitorとの併用時は、MVC 300mg1日2回

核酸系逆転写酵素阻害薬(NRTI)
抗HIV薬 Rifabutin(RBT)との併用 Rifampicin(RFP)との併用
TAF 併用を推奨しない 併用を推奨しない

(3)免疫再構築症候群(immune reconstitution inflammatory syndrome: IRIS)が起こることがある

 結核治療中に早期にARTを開始した場合、結核の一時的悪化をみることがある10)。症状・所見としては高熱、リンパ節腫脹、胸部X線所見の悪化(肺野病変および胸水の増悪)などが見られる。この反応は細胞性免疫能が回復し、生体側の反応が強くなったために引き起こされると考えられている。IRISはCD4陽性リンパ球数(以下、CD4数)が低いほど、ARTの開始が早いほど発症しやすく、結核の治療を開始後、2カ月以内にARTを始めた場合に高率に見られる11)

 IRISと診断された場合は抗結核薬の変更は必要ないが、症状が強い場合は抗炎症剤や短期の副腎皮質ステロイドの投与を行い、重症例では抗HIV薬の中止が必要になることがある。

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