X結核合併症例での抗HIV療法

5.ARTの開始時期

 結核の診断がついたときに、すでに以前よりARTを行っている患者では、ARTがウイルス学的に有効であれば抗HIV薬はそのまま継続し、結核の治療を開始する。ただし、ARTの内容により、rifamycin系薬との相互作用に注意する。ARTがウイルス学的に有効でなければ中止し、結核の治療を優先する。

 結核の診断がついた時点で抗HIV薬の投与を行っていない症例については、結核の治療を優先する。結核の治療を失敗した場合、死に至る可能性があるためだけでなく、周囲への二次感染を引き起こし、多剤耐性結核菌の出現をもたらす可能性があるからである。

 結核の治療開始後に新たにARTを開始する場合は、【3.HIV感染症合併結核の治療上の問題点】で示した3点についての配慮が必要であり、いつからARTを開始すべきか悩む症例が多い。

 2011年10月にARTの開始時期について3つの論文(randomoized controled trial)13-15)が発表された。各論文でARTの開始時期については多少の差異があるが、結核の治療開始後2週〜4週以内にARTを開始する早期群と8週〜12週に開始する遅延群について死亡あるいはAIDS指標疾患の合併をend pointとして比較している(表X-2)。Blancらによれば13)(対象はCD4<200/μL)、早期群は遅延群に比較して有意に死亡を減らした。しかし、Havlirら14)(対象はCD4<250/μL)およびAbdool Karimら15)(対象はCD4<500/μL)の論文では、両群において死亡あるいはAIDS指標疾患の合併に差がなかった。ただし、CD4<50/μLの免疫不全進行例では早期群の方が予後が良好であった(CD4≧50/μLでは差が無かった)14, 15)。いずれの論文でも早期群でIRISの合併頻度が高率であった。

 以上の論文から考えると、CD4<50/μLの免疫不全進行例では結核の治療開始後2週目にARTを開始し、CD4≧50/μLでは結核の治療開始後8週〜12週にARTを治療開始することが勧められる。DHHSガイドラインは以下のようなART開始時期についての指針を出している8)

  1. CD4<50/μL:結核治療開始後2週間以内にARTを開始する(AI)。
  2. CD4≧50/μL:結核治療開始後8週間以内にARTを開始する(AIII)。

 しかし、CD4<50/μLではIRISを高率に合併する。髄膜炎、心膜炎、呼吸不全などの重症結核ではIRISを起こした場合、致命的になる可能性が高いので、ARTの早期開始は勧められないだろう16)。早期群では副作用によりARTの薬剤変更を行った例が有意に多かったという指摘もあり15)、結核薬4剤、ART3剤、日和見感染症予防薬等の多剤を服薬せざるを得ない状況ではやはり副作用には注意が必要である。多剤耐性結核菌や耐性HIVの場合は、薬剤の選択がさらに複雑になり、慎重な判断が求められる。

表X-2 ART開始時期についての3論文13-15)
著者 Blanc et al 13) CAMELIA Study Havlir et al 14) ACTG Study A5221 Abdool Karim et al 15) SAPIT
研究方法 randomized, open-label trial randomized, open-label trial randomized, open-label trial
研究地域 Cambodia

Africa 69%

South America 20%

Asia 6%

North America 5%

South Africa
結核診断 塗抹陽性例 46%:結核菌確認 54%:臨床診断 塗抹陽性例
結核の治療 2HREZ4HR ガイドラインに従う 2HREZ4HR
ART d4T, 3TC, EFV(1年後にd4TをAZTに変更、EFVをNVPに変更) TVD, EFV ddI, 3TC, EFV
その他の治療 CD4<100ではST、fluconazole 94%がST内服  
症例数 661 809 429
対象者CD4数(/μl) <200 <250 <500
CD4中央値(/μl) 25 77 150
BMI(中央値) 16.7 19.2  
観察期間(中央値) 25ヵ月 48週 17.7ヵ月
ART開始時期 ①群 TB治療開始2週後(±4日) TB治療開始後2週以内 TB治療開始後4週以内
ART開始時期 ②群 TB治療開始8週後(±4日) 8~12週 8~12週にART開始
end point 50週での生存 AIDS指標疾患 or 死亡 AIDS指標疾患 or 死亡
結果 死亡①18% ②27%
(hazard ratio 0.62 P=0.006)
①12.9% ②16.1%(P=0.45) ①6.9* ②7.8*(P=0.73)
CD4<50 CD4<50と51-200
死亡に差は無し
①15.5% ②26.6%(P=0.02)
CD4>50では差は無し
①8.5* ②26.3*(P=0.06)
CD4>50では差は無し
IRIS ①3.76*(6名死亡)
②1.53*
(hazard ratio 2.51 P<0.001)
①11% ②5%(P=0.002)
IRIS発症時期の中央値
①21日 ②15日
①20.1* ②7.7*(P<0.001)
IRIS発症時期の中央値
①15日 ②15.5日
副反応 差は無し grade 3 or 4では差は無し。
好中球減少と血小板減少は②の方が多かった。
grade 3 or 4では差は無し。
副反応のためART変更
①10名 ②1名(P=0.006)
全死亡率 16% 6.6% 7.0%
結核の治療成績 差は無し   差は無し
ART成績
(CD4、ウイルス量)
差は無し 差は無し CD4の12、18ヵ月後は
①の方が増加。
結論 早期開始は予後がよい。
IRISは早期開始に多い。

差はなかった。ただし、CD4<50では早期開始は予後がよい。
IRISは早期開始に多い。

差はなかった。ただし、CD4<50では早期開始は予後がよい。

IRISおよび副反応によるART変更は早期開始に多い。

CD4≧50では、2ヵ月待ってから治療開始を勧める。しかし、結核終了後に開始することは勧めない(死亡率が56%高くなるから)。

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