XIIHIV/HCV共感染者での抗HIV療法

12.HIV/HCV共感染症の抗HCV療法の効果 - プロテアーゼ阻害薬を用いた治療 -

(1)テラプレビルtelaprevir

 HCV単独感染例のうちHCV Genotype 1の症例に対しては、プロテアーゼ阻害薬であるtelaprevirの使用が2011年に欧米、さらに本邦でも使用が可能になった。この場合のプロテアーゼはHCV由来のセリンプロテアーゼであり、HCV RNAの翻訳によって生じたpolyproteinを切断する役割を果たす。初回治療例、再治療例のいずれもこれまでの標準療法であるPeg-IFN + Ribavirin併用療法に比べて10%以上高い治癒率が得られる90, 91)。本邦ではGenotype 1高ウイルス量のC型慢性肝炎の第一選択薬と位置づけられていたが、第二世代のプロテアーゼ阻害薬(simeprevir)、さらにはDAAs併用療法の上市により、現在はGenotype 2の症例のうち難治例のみが、Peg-IFN + Ribavirin + telaprevirの3者併用療法の適応になっている。

 HIV/HCV共感染例に対するPeg-IFN + Ribavirin + telaprevirの3者併用療法の成績によれば、治療終了24週後にHCV RNAが陰性(SVR12)の割合は74%で、ART非導入例、導入例間で差は認められなかった92, 93)。別のコホートでも高いSVR率が得られている。またPeg-IFN + Ribavirinの再燃例、Breakthrough例に対するPeg-IFN + Ribavirin + telaprevirの治療効果はSVR12が80%と高い成績である94)

 Peg-IFN + Ribavirin + telaprevirの3者併用療法でHIV/HCV共感染例を治療するにあたっては、telaprevirと抗HIV薬との相互作用に注意しなければいけない。健常人に対する薬物動態試験から、HIVプロテアーゼ阻害薬の多くは、telaprevirとの併用で両者の血中濃度を下げることがわかっている。また、NNRTIとの併用はtelaprevirの血中濃度を下げることが報告されている95)。また、3者併用療法では、皮疹や貧血などの副反応が高率かつ強く出現することも報告されている。

 Telaprevirを単剤でC型肝炎の治療に用いた場合、短期間でHCV耐性となってしまう。Telaprevir耐性となった場合、次世代以降のHCVプロテアーゼ阻害薬に対しても耐性となることが危惧されるため、使用にあたっては十分注意しなければならない96)。Telaprevirの耐性変異として最も重要なものはNS3領域155番目(Genotype 1aのみ)及び156番目(Genotype 1a, 1b両方)のアミノ酸変異である。これらの変異を持つ場合、simeprevirの感受性を低下させる可能性がある96)

(2)シメプレビルsimeprevir

 直鎖状構造を有するtelaprevirに対し、simeprevirは大環状構造を持ち、asunaprevir, vaniprevir, faldaprevirと共に第二世代のプロテアーゼ阻害薬に分類される。Telaprevir同様Peg-IFN +リバビリンとの併用療法で投与され、治療期間も同じ(Genotype 1の場合、3者併用で12週間、その後Peg-IFN + Ribavirinの2者併用で12〜36週間)である。現在までのところGenotype 1にのみ有効性が示されている。2013年12月にGenotype 1のC型慢性肝炎症例に対して健康保険の適応が認可された。

 simeprevirの最大の利点は副反応の軽さである。特有の副反応として黄疸が数%に認められるが、肝細胞におけるビリルビン代謝の変化に起因する一過性の変化である。副反応が軽いため治療完遂率が高い。

 C型慢性肝炎に対するPeg-IFN + Ribavirin + telaprevir併用療法の臨床試験は国内と海外でほぼ同時に進行した。日本の臨床試験はCONCERTO-1試験(初回治療例)、CONCERTO-2試験(前治療無効例)、CONCERTO-3試験(前治療再燃例)、CONCERTO-4試験(初回治療例、前治療再燃例、前治療無効例)、に対して行われた。なお、日本における臨床試験はtelaprevirは65歳以下、simeprevirは70歳以下が対象であり、肝硬変は除外されている。telaprevirとsimeprevirの治療効果の間に大きな差は認められない97)

 HIV/HCV重複感染に対するPeg-IFN + Ribavirin + simeprevir併用療法の臨床試験(C212 study)のSVR12は、初回投与例79%、再燃例87%、前治療部分反応例(Partial Response: 治療開始12週後のHCV RNAが前値の1/100未満)70%、前治療無効例57%といった成績が得られており、HIV非感染例とほぼ同じであった98)

 simeprevirはtelaprevir同様CYP3Aで代謝されるが、telaprevirほどCYP3Aに対する作用が強くない。このため、併用禁忌となる薬剤も少ない。抗HIV薬としてはEFV(EFVがsimeprevirの血中濃度を低下させる)のみである。ただし、HIVプロテアーゼ阻害薬に関してはsimeprevirの血中濃度に影響を及ぼす可能性があり、現時点での併用は推奨されない。

 simeprevirに対する薬剤耐性としてはNS3領域の168番目のアミノ酸の変異(D168V/A/T/H)が最も重要である。Genotype 1a、1bともこの部位の変異によりsimeprevirに耐性となる。また、Genotype 1aの症例に関しては80番目のアミノ酸変異(Q80K)も治療効果を低下させることがわかっており、Genotype 1aの多い米国では80番目のアミノ酸配列を治療前に調べることが推奨されている。

(3)国内で行うことのできるインターフェロンフリーの治療

 本邦でも2014年9月にインターフェロンを使わないDAAのみによる治療(asunaprevir + daclatastavir)が認可された。simeprevirと同じ大環状型のプロテアーゼ阻害薬であるasunaprevirと、NS5Aの阻害薬であるdaclatastavirを24週間併用する治療で、対象はGenotype 1bの患者である。抗HIV薬との併用に関してはEFV以外にすべてのPIとNNRTIが併用禁忌に挙げられている。またGenotype 1aの患者には効果がない。このためHIVとの共感染例に使用するには十分な注意が必要である。

 2015年5月にはGenotype 2の症例に対するsofosbuvir(NS5B阻害薬)とribavirin併用療法が保険認可された。90%以上の治療効果に加え、副反応も軽い99)。同じような高い奏功率が海外からも報告されており100-102)、Genotype 2に対する第一選択は世界的に“sofosbuvir + ribavirinの12週併用療法”となっている。HIVとの重複感染に対してもsofosbuvir + ribavirinとの12週間併用で単独療法と差のないSVRが報告されている103, 104)

 Genotype 1の場合はNS5A阻害薬であるLedipasvirとの12週間併用療法が国内でも臨床試験として行われており、100%に近いウイルス排除率が得られている105)。同様の高い奏功率が海外でも報告されており106-108)、“sofosbuvir + ledipasvir 12週併用療法”は世界的に標準療法となっている。HIVとの併用においても95%以上の高いウイルス排除率が報告されている109, 110)。国内からもHCV/HIV重複感染者に対する臨床成績が報告され、高い著効率が得られている111, 112)

 第二世代プロテアーゼ阻害薬であるgrazoprevirと第二世代NS5A阻害薬であるelbasvirの併用療法も2016年から可能になった。単独感染では極めて高いSVR12が得られる治療であるが、HIVとの共感染例に対するC-worthy試験(12週間)でもリバビリン併用下でのSVR12が98%である113)。同様の治療を多数のHCVの初回治療例(Genotype 1, 4, 6)を対象に行ったのがC-Edge coinfection studyである。どの群でも94%以上の高いSVR12が報告されている114)Genotype 1または4に感染したMSMに対する市販後臨床試験の結果も報告され、122例中Genotype 4の1例を除いた121例でウイルス排除が可能であった115)

 また、Genotype 1bの症例に対してはオムビタスビル・パリタプレビル/リトナビル併用療法が可能である。One pillの製剤であるが、NS5A阻害薬であるオムビタスビルとNS3プロテアーゼ阻害薬であるパリタプレビルが有効成分でパリタプレビルの血中濃度を高めるためリトナビルが併用されている。抗HIV薬のプロテアーゼ阻害薬、非核酸系逆転写阻害薬の一部が併用注意、併用禁忌薬となっている。またリトナビルが含まれており、未治療のHIV患者では、HIVに対するプロテアーゼ阻害薬の耐性が生じてしまう可能性があり、ART施行例のみが対象となる。

 Pan-genotypic DAAに関しては(4)で述べることにする。

(4)Genotype 3の治療

 Genotype 1, Genotype 2は以上のように90%を超えるウイルス排除が可能になった。現在残された最大の問題はGenotype 3の治療である116)。Genotype 3はヨーロッパや南アジアで高頻度に見られる。日本では輸入血液製剤の使用歴のある血液凝固異常の患者を中心に2000〜3000人程度の患者がいると推定されるが、これまではGenotype 2と同様の治療が主として行われてきた。

 Genotype 3 HCVの症例は高率に脂肪肝を伴い117, 118)、線維化の進展も速い119, 120)ため肝細胞癌のリスクも高い121, 122)。それにもかかわらずペグインターフェロン・リバビリン併用療法に対する反応も悪い123, 124)。インターフェロンフリー治療の役割が他のGenotype以上に期待される。

 Genotype 3 HCVに対する臨床試験はGenotype 2と同様のプロトコール(sofosbuvir+ ribavirin 12週間)で行われたが、12週間の治療でのSVR12は治療歴のない症例であっても60%前後であり101)、治療期間を24週に伸ばすことで治療歴に関わらず80%台のSVR12を得ることができた102)。Genotype 3に対してはこの“sofosbuvir +ribavirin 24週間併用療法”が行われ、本邦でも健康保険で認可されている。Genotype 1に対する標準療法である“sofosbuvir + ledipasvir 12週間併用療法”の成績も最近公表されたが125)、初回投与例でのSVR12は64%であった。Genotype 3に対してはsofosbuvir + daclatasvir(ledipasvir同様NS5A阻害薬)による治療が行われ、こちらは初回投与例で90%、再治療例で86%と高いSVR12が得られている。しかしながら肝硬変例に対するSVR12は60%台である126)

 HIVとの共感染例に対する成績も公表されている。Sofosbuvir+Ribavirinに関しては、HCV単独感染同様24週間の投与が行われた場合は90%近いSVR12が得られている103, 104)。また、少数例ではあるがsofosbuvir + daclatasvir併用療法も行われており、良好な効果が得られている127)。本邦では血液凝固因子製剤による感染例を対象としたsofosbuvir + daclatasvirによる臨床試験が進行中である。

 2017年秋にすべてのHCV genotypeに効果のある“pangenotypic”なレジメンとして第二世代のプロテアーゼ阻害薬であるglecaprevirと第二世代のNS5A阻害薬pibrentasvirとの合剤が発売された。PIを中心としたいくつかの抗HIV薬との併用には注意が必要だが、効果が高く安全な薬である。Genotype3を含むGenotype 1-6に高い有効性が示されており128, 129)、HIV重複感染例にも安全で有効であることが報告されている130)

 以上の成績からはDAA併用療法はHIV感染の有無によってSVRに差がないことを示しており、それを支持する成績も出てきている131)。今後はHIV共感染例に対しての独立した臨床試験は不要との議論も出てきている132)。このような状況でDAAによる抗HCV治療を行う際の最も重要な注意点は、併用薬剤とDAAとの薬物相互作用である。いずれのDAAも多くの併用禁忌薬、併用注意薬を有しており、多くの抗HIV薬がその中に含まれている。

 HIV重複感染例では、使用されている抗HIV薬との薬物相互作用を確認し、場合によって抗HIV薬を変更したうえで、HCV治療を行う必要がある。また各治療法によりその特徴が異なるため各薬剤の特色を把握したうえで治療薬を選択する必要がある。

 なお、ソホスブビルは腎代謝であるため、高度腎機能障害(eGFR<30ml/min/1.73m2)や透析患者では禁忌となっている。抗HIV薬のなかではテノホビルの血中濃度が上昇する場合があるため併用注意となっている。

 現時点でのHIV/HCV重複感染症に関する治療を(表XII-1)にまとめた。

表XII-1 HIV/HCVに共感染例におけるHCV治療※1
Genotype 第一選択 第二選択
1(1a, 1b) LDV/SOF※2
EBR+GZR
GLE/PIB
 
2(2a, 2b) GLE/PIB
LDV/SOF※2
SOF/RIB(12w)
3 GLE/PIB SOF/RIB(24W)
上記以外 GLE/PIB SOF/RIB(24W)
LDV/SOF※3

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