XIV小児、青少年期における抗HIV療法

4.抗HIV療法の開始時期

 小児においても、多剤併用治療は効果的であり、ウイルス増殖を抑制し免疫系の破壊を食い止めて、日和見感染や臓器障害のリスクを減少させられる12)。また生後3ヵ月までに抗HIV療法を開始した64例と待機した26例の比較では、開始群で運動および神経学的発達が優れていたとの報告がある13)。しかしながら、抗ウイルス薬には短期的あるいは長期的な副作用の問題があり、さらに小児に対する投与量や安全性に関する十分なデータがあるとはいえない。また、治療に当たってはアドヒアランスの維持が確保できることが絶対条件であり、治療薬に対して耐性のウイルスがひとたび出現すれば、将来の治療法の選択が制限されることも認識しておく必要がある。

 ヨーロッパと米国の8つのコホートと9つの臨床試験(HPPMCS)によるメタアナリシスが報告され14)、4,000人近い小児無治療患者の1年以内のAIDS発症リスクがまとめられている(表XIV-3)。この報告によれば、1歳を越えてからは、CD4パーセントが25%以上であれば1年以内のAIDS発症は10%未満にとどまり、死亡率も2%未満となっている。しかし、1歳以下の乳児のAIDS発症・死亡のリスクは、CD4パーセントが25%以上あってもかなり高い。また、すべての年齢層で、CD4パーセントが15〜20%以下となると、AIDS発症リスクが高まることが分かる。1年以内のAIDS発症リスクが10%を越えるというのは、治療開始を考慮する妥当な線だと考えられる。

 1歳未満の乳児では病期の進行が速く、また、検査値から病期進行のリスクを明確に予測できないことから、1歳未満では検査値にかかわらず診断から1ないし2週間以内に直ちに治療を開始することが推奨される1)が、1歳以上の児では、年齢層によって治療開始判断の根拠となる検査値がいくらか異なってくる。

表XIV-3 無治療あるいはAZT単剤治療を受けた小児が1年以内にAIDSを発症するリスクの予測値
CD4パーセント
年齢 5% 10% 15% 20% 25% 30% 40%
6ケ月 65 51 40 31 25 20 16
1歳 56 40 29 21 16 13 9.9
2歳 46 29 18 12 8.8 7.2 5.9
5歳 31 15 7.6 4.7 3.6 3.1 2.9
10歳 20 7.4 3.4 2.2 1.9 1.8 1.7
HIV RNA量(コピー/mL)
年齢 106 105 104
6ケ月 24 14 11
1歳 21 11 7.8
2歳 19 8.1 5.3
5歳 17 6.0 3.2
10歳 16 5.1 2.2

<1歳未満の乳児に対する抗HIV治療>

 病期進行のリスクは1歳以下の乳児で明らかに高いことが分かっているものの、この年代の乳児の病期進行リスクを判断するための信頼性のある検査値がないのが現状である。CD4数が低く、HIV RNA量が高いほど、進行が速い傾向はあるものの、進行群と非進行群との間にはかなりの重なりが見られることから、これらの検査値から一概にリスクを判断することはできない。

 全体にAIDS発症や死亡のリスクが高いことを考慮して、いずれのガイドライン1-3)も1歳未満の小児に対しては、臨床症状や免疫学的ステージ、HIV RNA量にかかわらず、診断がなされたら直ち(診断から1-2週間以内)に治療を開始することを強く推奨するとしている。実際、生後3カ月未満の乳児では、CD4数が25%以上あって無症候であっても、ARTを開始することで死亡率を4分の1に低下させられるとの報告がある15-17)

 1歳未満で治療を開始し、リスクの高い乳児期を乗り切ったあとに、戦略的な治療中断(STI)が可能かどうかに関しては、現時点ではデータが十分ではない17)。上述したメタアナリシス(表XIV-3)のデータでは、1歳以降では病期の進行リスクが減少してくるように見えるが、これは乳児期を無治療でも乗り切れた患児についてのデータであり、このデータをもとに1歳以降にSTIを行った場合の予後を判断するわけにはいかない。

<1歳以上の小児に対する抗HIV治療>

 1歳を越えるとAIDSの進行は1歳未満の乳児よりも遅くなってくるので、これまでは治療を遅らせるというオプションも示されてきたが、US-DHHS20181)とPENTA 2, 3)ではHIV感染症による症状が認められるかCD4数が低下している場合は直ち(診断から1-2週間以内)に治療を開始することを強く推奨するとし、さらにCD4数が正常域にあって、かつHIV感染症による症状が無いか軽微であっても、より低年齢かつより高いCD4数でARTを開始する方が免疫回復と発育正常化に益するとの報告から18, 19)十分な服薬指導を行った上での治療開始を強く推奨している。具体的には表ⅩⅣ-1の年齢別CD4数によるHIV感染症の免疫学的ステージ(CDC,2014)と表ⅩⅣ-2の小児(13歳未満)HIV感染症の臨床分類(CDC, 1994)の定義に沿って表ⅩⅣ-4の小児HIV感染症の治療開始基準(US-DHHS 2018より作成)を適応する。

 小児に対する抗HIV療法開始後は、服薬が遵守されているかどうかに細心の注意を払う必要がある。幼小児の服薬は保護者に依存するので、処方内容をよく理解させるため、治療を決定するプロセスに保護者と患児をいっしょに参加させ、アドヒアランスの重要性をよく説明する。また、治療開始後も頻回に服薬状況を観察する必要がある。

表XIV-4 小児HIV感染症の治療開始(注1)基準(US-DHHS 2018より作成)
(小児の推奨評価の基準は成人と異なる。本ガイドラインP4を参照。)
年齢 基準 推奨度
6週以上12週未満 臨床症状や免疫・ウイルスマーカーの如何に関わらず 直ちに(注2)治療(AI)
12週以上1歳未満 臨床症状や免疫・ウイルスマーカーの如何に関わらず 直ちに治療(AII)
1歳以上
6歳未満
臨床分類C群または免疫学的ステージ3 直ちに治療(AI*)
臨床分類B群または免疫学的ステージ2 治療(AII)
無症状か軽微な症状(注3)で、CD4 ≥ 1000/μL 治療(AⅠ*)
6歳以上 臨床分類C群または免疫学的ステージ3 直ちに治療(AI*)
臨床分類B群または免疫学的ステージ2 治療(AII)
無症状か軽微な症状で、CD4 ≥ 500/μL 治療(AⅠ*)

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