XV医療従事者におけるHIVの曝露対策

5.曝露事象から予防内服開始までの時間的猶予

 最適な予防効果を得るためには曝露から予防内服までの時間的間隔を出来るだけ短くすべきである。動物実験の結果では曝露後24時間から36時間以降に曝露後予防を開始すると有効性が劣るとされるが、ヒトについては曝露後36時間以降に開始した曝露後予防の効果を否定する報告もないため、曝露から長期間(たとえば1週間)が経過した場合であっても曝露後予防を検討してもよい。

 エビデンスは乏しいが、可能であれば2時間以内の開始が重要と考えられる。CDCガイドラインには「PEP should be initiated as soon as possible, preferably withinhours of exposure」と記載され、時間としては「数時間」と記載されている6)。米国ニューヨーク州のガイドライン(2014年)には「The Committee further emphasizesrecommendations regarding the importance of initiating occupational PEP as soon aspossible, ideally within 2 hours of exposure.」と記載され、「2時間」の目安が示されている11)。また2008年の英国のガイドラインには「PEP should be commenced as soon aspossible after exposure, allowing for careful risk assessment, ideally within an hour」と記載され、「1時間」の目安が示されている12)。つまり、事故後、速やかな内服が推奨され「理想的には1時間あるいは2時間以内」を勧めるガイドラインがあるという現状である。なお、2014年の英国の調査では、HIVの予防内服をした者のうち89%(535/598)が24時間以内に、97%(580/598)が72時間以内に内服を開始していた。また、この10年以上の間、針刺し暴露によるHIV感染事例の報告は無かったと報告されている13)

 この時間的猶予から考えると、夜間や週末までも含めたすべての時間帯で対応可能とする必要がある。特に救急外来医師が対応することも多く、救急外来部門と連携を確実にしておくことが重要である。HIV感染者への医療は全ての医療機関で実施される可能性があるが、多くの施設ではHIV感染症の専門家が不在と考えられるので、各地域において協力体制を確立することが必須である。例えば、神奈川県のホームページ(http://www.pref.kanagawa.jp/docs/ga4/cnt/f6943/p22642.html)には「針刺し事故発生時の対応病院について」を地図で記し、県下の医療機関・介護施設等での曝露事象に関する対応が時間外においても2時間以内に開始可能となる体制が分かりやすく示されている。

 尚、72時間以降では内服を推奨しない場合が多いが、非常にHIV伝播のリスクが高い場合には1週間後でも内服開始を考慮してもよい6)

 判断が困難な場合には、曝露医療者の同意後、1回目の内服を実施する方法もある。それにより(例えばアイセントレス®;RAL)を選択した場合には12時間の)専門家と相談する時間的余裕が確保される。

図XV-1 神奈川県における針刺し事故発生時の対応病院について
受診と抗HIV薬の予防的服用を行うことのできる病院のマーク。

受診と抗HIV薬の予防的服用を行うことのできる病院

医師の指示があれば抗HIV薬の予防的服用ができる病院のマーク。

医師の指示があれば抗HIV薬の予防的服用ができる病院

6つの地域ごとに色分けされた神奈川県の地図。各病院の場所と名称が記載されており、「受診と抗HIV薬の予防的服用を行うことのできる病院」と「医師の指示があれば抗HIV薬の予防的服用ができる病院」の二種類のマークがそれぞれ病院のある場所に置かれている。「受診と抗HIV薬の予防的服用を行うことのできる病院」は、北里大学病院、神奈川県立足柄上病院、東海大学医学部付属病院、聖マリアンナ医科大学病院、川崎市立井田病院、川崎市立川崎病院、横浜市立市民病院、横浜市立大学附属病院の8か所。「医師の指示があれば抗HIV薬の予防的服用ができる病院」は、相模原赤十字病院、相模原病院、小田原市立病院、秦野赤十字病院、厚木市立病院、横浜医療センター、神奈川県立子供医療センター、横浜市立大学附属市民総合医療センター、横浜市みなと赤十字病院、康心会潮見台病院、横須賀市立市民病院の11か所。
※地域ごとの色分けはあくまで目安ですので、病院を選ぶ上での参考にしてください。

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