XV医療従事者におけるHIVの曝露対策

6.曝露後の抗HIV薬内服

 内服開始前には、最低限以下の3項目は確認が必要である。

  1. 女性医療者では妊娠かつ妊娠可能性の確認
  2. 慢性B型肝炎のある医療者では、抗HIV薬の選択において注意が必要である(【被曝露者が慢性B型肝炎患者である場合】を参照)
  3. 腎機能に問題のある医療者では、抗HIV薬の選択において注意が必要である(【腎機能により用量が必要な抗HIV薬】を参照)

 HIV曝露後予防の具体的方法は、2013年のCDCガイドライン6)では第1推奨薬は以下の2剤に単純化されている(表XV-1)。

  1. アイセントレス® (Raltegravir:RAL)1錠400mg、1回1錠、1日2回
  2. ツルバダ配合錠® (Truvada:TDF/FTC)1錠、1回1錠、1日1回

 HIV感染者への治療においては、ツルバダ®(TDF/FTC)は基本的にはデシコビ(TAF/FTC)に代替可能と考えられている。しかし、2019年3月時点でも曝露後予防内服としてCDCは「ツルバダの代替薬としてデシコビ®が使用可能である」との見解は示していない。現実には多くの医療機関では採用薬としてツルバダ®はデシコビ®に置き換えられつつあるが、デシコビ®の妊婦への安全性が確立していないこともあり、現時点で第一選択として推奨する予防内服薬は、アイセントレス®+ツルバダ®の組み合わせである。

 一方、妊娠(その可能性)が否定できる場合は、ツルバダ®をデシコビ®に変更してもよいと考えられる。ただし、デシコビ配合錠®(TAF/FTC)はHTとLTの2種類がある点に注意する(HTはTAF 25 mg、LTはTAF 10 mgを含有)。アイセントレス®と併用する場合は「デシコビ配合錠®HT」を用いる。デシコビ®はツルバダ®と同じく1日1回1錠であり、食事と無関係に内服可能である。

 ドルテグラビル(DTG、商品名テビケイ®)は、多くの治療ガイドラインにおいて第1推奨薬として位置付けられ、治療薬としての効果は確立している。2013年のCDCの曝露後予防内服ガイドライン6)の発行時にはDTGは承認されていなかったため記載はないが、最新のヨーロッパの治療ガイドライン内には、TDF/FTC+DTGは代替薬として考慮しても良いと記載されている14)。飲みやすさ(1日1回1錠)や相互作用の少なさなどを考慮して、本ガイドラインにおいてはドルテグラビルを第2推奨薬として位置付けることとする。ただし、以下の2点に特に注意が必要である。①妊婦がドルテグラビルを使用した場合には、新生児の神経管欠損症(neural tube defects:NTD)が増える可能性が報告され、妊婦または挙児希望の女性に対しては禁忌とされている。ボツワナでの検討ではNTDの頻度は0.94%(4/426)であった(ドルテグラビル非使用群ではNTDの頻度は0.12%(14/11,300))15)。そのため妊娠または妊娠の可能性のある医療者への使用は選択されてはならない。②アイセントレス®と比較し有害事象による中止例の多い可能性がある16)日本では、関根らの報告17)によると269例のドルテグラビル使用例において精神神経障害合併8.9%(頭痛3%、迷走神経障害2%、異夢2%、睡眠障害2%)・消化器障害合併7.8%(下痢3%、悪心2%)・肝機能障害合併3.3%であり、副作用による中断は8例=3%(肝機能障害3例、消化器障害2例)であった。

表XV-1 HIV曝露後予防のレジメン
(1)第1推奨

アイセントレス®(RAL)+ツルバダ®配合錠(TDF/FTC)

≒アイセントレス®(RAL)+デシコビ®配合錠HT(TAF/FTC)(※ 妊娠が否定できる場合)

  • アイセントレス®は400mgを1日2回内服する(1日2錠)。なお、アイセントレス®は600mgの錠剤もあり、1日1回2錠(1200mg)内服という選択肢もあるが、基本は400mg錠の1日2回内服とする。
  • ツルバダ®、デシコビ®は1日1回1錠を内服する。
  • 上記薬剤は食事とは無関係に開始可能である。
(2)第2推奨

テビケイ®(DTG)+ツルバダ®配合錠(TDF/FTC)

  • テビケイ®、ツルバダ®とも1日1回1錠を内服する。
  • 上記薬剤は食事とは無関係に開始可能である。
  • テビケイは妊婦が使用した場合には新生児の神経系の障害のリスクが増える可能性が報告された。そのため妊娠または妊娠の可能性のある医療者への使用は選択されてはならない。
    その他の第2推奨レジメンは、「第V章 初回治療に用いる抗HIV薬の選び方」に準じる。
(3)専門家との相談があったときのみ使用して良い抗HIV薬
  • ザイアジェン® (Abacavir; ABC)
    注:トリーメク®配合錠内服の経験蓄積と日本人でのHLA-B*5701 対立遺伝子の保有率の低さから、以前より上位の選択肢になりうると考えられる
  • ストックリン® (Efavirenz; EFV)
  • レクシヴァ® (Fosamprenavir; FPV)
  • シーエルセントリ® (Maraviroc; MVC)
(4)以下の薬剤は、曝露後予防としては禁忌(または推奨されない)。
  • ビラミューン® (Nevirapine ; NVP)
  • ビラセプト® (Nelfinavir ; NFV)
【被曝露者が慢性B型肝炎患者である場合】

 以下に主要な抗HIV薬での抗HBV効果の有無を示す。被曝露者が慢性B型肝炎患者である場合、理論的には抗HBV効果のない薬剤が望ましいが(内服終了後にHBVのリバウンドを生じうるため)、それはガイドラインが推奨する「キードラック1剤+2剤のNRTI(核酸系逆転写酵素阻害剤)」の組み合わせにはならない(表XV-2)。専門家との相談が必要である。

表XV-2 各抗HIV薬の抗HBV効果
  抗HBV効果が有る 抗HBV効果が無い
キードラック   アイセントレス®
テビケイ®
プリジスタ®/ノービア®
プレジコビックス®配合錠
NRTI(核酸系逆転写酵素阻害剤) ツルバダ®配合錠
デシコビ®配合錠HT/LT
エプジコム®配合錠
エピビル®
エムトリバ®
ビリアード®
ザイアジェン®
合剤 スタリビルド®配合錠
ゲンボイヤ®配合錠
 
【腎機能により用量が必要な抗HIV薬】

 以下に主要な抗HIV薬での腎機能による用量調整の必要性の有無を示す。腎障害がある場合には専門家との相談が必要である。

表XV-3 各抗HIV薬での腎機能による用量調整の必要性
  用量調整が必要 用量調整が不要
キードラック   アイセントレス®
テビケイ®
プリジスタ®/ノービア®
プレジコビックス®配合錠
NRTI
(核酸系逆転写酵素阻害剤)
ツルバダ®配合錠
デシコビ®配合錠HT/LT
エプジコム®配合錠
エピビル®
エムトリバ®
ビリアード®
ザイアジェン®
合剤 スタリビルド®配合錠
ゲンボイヤ®配合錠
 

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