IX抗HIV薬の副作用
8.乳酸アシドーシス
乳酸アシドーシスは時に致死的となる代謝障害で、NRTIがミトコンドリアのDNAポリメラーゼg活性を阻害するために発症すると考えられる。図IX-3に示すようにddC、ddI、d4Tの3剤(いずれも現在は発売中止)が比較的強いミトコンドリア障害を起こすことが知られている72)。しかし、AZT単剤使用者にも乳酸アシドーシスの報告がみられる。乳酸アシドーシスは1000患者・年あたり1.3人程度とまれな合併症である。しかし、無症状の高乳酸血症はART施行中の患者には比較的多く、John MらはART施行中のHIV感染者の18.3%で乳酸値が2.5~5.0mmol/L(正常値0.3~1.9mmol/L)であったと報告している73)。
表IX-2に、文献的に報告された90例の乳酸アシドーシスの臨床症状を示す74)。これからわかるように、主な症状は悪心、嘔吐、腹痛などの非特異的なものが多く、軽~中等度の肝機能障害を高率に認める。乳酸値の上昇が軽度の場合、「無症状高乳酸血症」のHIV感染者が感冒等の他の原因で体調不良を訴えているのか、本当に乳酸アシドーシスなのかの判断に苦慮する場合がある。乳酸値が軽度上昇であれば(5mmol/L未満)、ARTを継続しながら慎重に経過観察することも可能であるが、乳酸値が高度に上昇していれば(5mmol/L以上)直ちにARTを中止することも考慮する。ただし、乳酸値が5mmol/L未満でも乳酸アシドーシスの発症はあり得る。その他、急速に進行するGuillain-Barre症候群様の末梢神経障害(しびれ、筋力低下)を伴う乳酸アシドーシスの報告もある75)。
治療は、ARTの中断と対症療法である。thiamine、riboflavin、coenzyme Q10、vitamins C、L-carnitineなどの投与を行ったとする報告があるが、有効性は明確でない76)。回復後にARTを再開する場合は、比較的ミトコンドリア障害が少ないNRTIとされるABC、TDF、TAF、3TC、FTCなどを選択し慎重に経過を観察するか、あるいはNRTIを含まない多剤併用療法を検討する。
図IX-3 ヌクレオシド系逆転写酵素阻害剤のミトコンドリアに対する影響
表IX-2 乳酸アシドーシス患者90例の臨床所見
| 中央値 | 範囲 | 正常値 | |
|---|---|---|---|
| 乳酸(mmol/L) | 10.5 | 2.4-168.5 | 0.7-1.2 |
| pH | 7.2 | 6.67-7.42 | 7.35-7.45 |
| Bicarbonate (mmol/L) | 8 | 1.2-26 | 24-29 |
| Anion gap (mEq/L) | 25.5 | 10.0-42.0 | 8.0-12.0 |
| 症状 | 人数(%) |
|---|---|
| 吐き気 | 45(53%) |
| 嘔吐 | 44(52%) |
| 腹痛 | 38(45%) |
| 体重減少 | 19(22%) |
| 脱力感 | 19(22%) |
| 不眠 | 19(22%) |
| 食欲不振 | 16(19%) |
| 多呼吸 | 13(15%) |
| 下痢 | 8(9%) |
| 倦怠感 | 7(8%) |
| 腹部膨満感 | 5(6%) |
| 意識障害 | 2(2%) |
| その他 | 8(9%) |
| 軽~中等度の肝障害 | 65%(UNL 1.5-10.7) |
Arenas-Pinto et al. Sex Transm Infect. 79:340, 2003より作成