XV小児、青少年期における抗HIV療法
5.治療薬の選択
小児HIV感染症においても抗HIV薬3剤以上の併用療法を行い、ウイルスの複製をできる限り抑え込むのが基本である。ウイルス量が成人よりも高い小児では、4剤併用のほうが3剤併用よりも効果が高い可能性を示唆する報告も以前は散見されたが12, 21)、いずれも症例数が少なく、臨床的な予後改善において現在の抗HIV薬による3剤併用が4剤併用より劣るというエビデンスはない。現在の初回治療の原則は、成人と同様、バックボーンの核酸系逆転写酵素阻害剤(nucleoside/nucleotide reversetranscriptase inhibitors:NRTI)2剤に、インテグラーゼ阻害剤(integrase strand transferinhibitor:INSTI)、非核酸系逆転写酵素阻害剤(non-nucleoside reverse transcriptaseinhibitor:NNRTI)もしくはritonavirでブーストしたプロテアーゼ阻害剤(proteaseinhibitor:PI)をキードラッグとして組み合わせる3剤併用療法である(表XV-4、図XV-1, 2)。
バックボーンとして推奨される2NRTIsは、誕生から6歳未満はAZT+(3TC or FTC)(AI*)、3ヵ月以上はABC+(3TC or FTC)(AI)である。6歳以上は体重25kg以上でCcr推定値が30mL/min以上あれば、配合剤としてのTAF/FTC(デシコビHT®)がINSTIあるいはNNRTIとの組み合わせで推奨され、体重35kg以上になればCcr推定値が30mL/min以上でTAF/FTC(デシコビLT®)がPIとの組み合わせで推奨される(AI*)。
キードラッグの第一選択として推奨されるINSTIは、生直後から3歳未満は体重2kg以上で、3歳以上は体重25kg未満でRAL(米国FDAは生直後から使用できる乳幼児用製剤を認可)(AI*)である。3歳以上で体重が25kg以上はDTG(AI*)が推奨される。Ccr推定値が30mL/min以上かつ体重25kg以上の思春期を含む小児では配合錠EVG/cobi/TAF/FTC(ゲンボイヤ®)としてのEVG(AI*)および配合錠BIC/TAF/FTC(ビクタルビ®)としてのBIC(AI*)が推奨される。
キードラッグの第一選択として推奨されるNNRTIは、生後2週未満のNVPのみである。NVPは2週以上3歳未満では代替処方に位置付けられ(AI)、2カ月以上3歳未満でLPV/rtvと比較した場合の治療失敗率が高かったとする研究があり適応が限られる22)。
キードラッグの第一選択として推奨されるPIは、修正在胎期間42週以上かつ生後2週以上から3歳未満はLPV/rtv(AI)、3歳以上で体重25kg未満はATV+rtv(AI*)である。同じく3歳以上から12歳未満は1日2回のDRV+rtv(AI*)である。12歳以上で体重40kg以上は薬剤耐性変異(V11I, V32I, L33F, I47V, I50V, I54L, I54M, T74P, L76V, I84V, L89V)が無ければ推奨されていた1日1回のDRV+rtvは代替処方となった(AI*)。
以下に推奨されるキードラッグを年齢順に再掲する。
- 生後2週未満:NVPまたは体重2kg以上ならばRAL
- 生後2週以上3歳未満:LPV/rtvまたはRAL
- 3歳以上:
- 体重25kg未満:ATV/rtv、1日2回のDRV/rtv、RAL
- 体重25kg以上:DTG
- 体重25kg以上:配合錠(EVG/cobi/TAF/FTC)としてのEVG
- 12歳以上かつ体重25kg以上の思春期:配合錠(BIC/TAF/FTC)としてのBIC
治療開始に当たってはアドヒアランスと耐性の関係を患者と保護者にしっかり説明しておかねばならない。低年齢では薬剤の味(リトナビル含有シロップで問題となりやすい)と剤形(パウダー、シロップ、錠剤など)が忍容性に大きく影響する。
AZTの単剤投与は、HIV感染の有無が不明の生後6週未満の新生児感染予防に限るべきであり、ひとたび感染が確認された場合は、(表XV-4-1~4と表XV-4-1脚注を参照し)直ちに多剤併用治療を開始すべきである(治療を遅らせる場合でも、AZT単剤投与は中止すべきである)。米国では治療開始前の小児が薬剤耐性ウイルスを持っている頻度が上昇してきており、その耐性パターンは母子感染予防のため母親に投与されていたレジメンから推定するのは困難とされる。現在では、初回治療を開始する前にgenotypeによる薬剤耐性検査を行うことが推奨されている。(ただし、薬剤耐性検査を行ってから治療するほうが、治療の成功率が高いという明確なデータはまだない)。
図XV-1 小児の初回治療として選択すべき抗HIV薬の組み合わせ(PENTA2019およびUS-DHHS2020より作成)
図XV-2 小児の初回治療として選択すべき2NRTIsの組み合わせ(PENTA2019およびUS-DHHS2020より作成)
図XV-1, 2に現在推奨される年齢別の治療薬の組み合わせ、表XV-4-1~4に各治療薬の小児用量と留意点をまとめた。小児でのRCTは限られていることから、推奨処方の多くは、成人での臨床試験のデータと、小児でのphase I/II試験における安全性・薬物動態データに基づいて提唱されている。表XV-4-1~4は米国での薬剤の認可に基づいて作成したが、小児用量は成人におけるほど確立しておらず、新しいデータが出るたびにしばしば変更が加わるので、いつも最新の情報を確認していただくことをお勧めする。新生児・乳児ではとりわけ血中濃度の個人差が大きくなるので、薬剤血中濃度のモニター(TDM)も考慮される。12歳以上で思春期後期(性成熟度sexual maturity rating;SMR Ⅳ~Ⅴ)の薬剤選択は成人のガイドラインに準拠する。
表XV-4-1 小児の主な抗HIV治療薬(NRTI)(US-DHHS 2020より作成)
| 薬剤名 | ジドブジン(レトロビル) AZT, ZDV |
|---|---|
| 国内で |
注射薬* シロップ* |
| 特記事項 | 在胎37週未満の母子感染ハイリスク**ではAZT/3TC/NVPまたはAZT/3TC/RALの投与が推奨される。 6週から18歳までの小児では体重換算の用量調節も可で、
|
| 小児への |
生後6週まで(母子感染のリスクが低い場合***は生後4週まで)母子感染予防量として、それ以降は治療量として用いる。 静脈投与では経口量の75%を用いる。在胎週数別に以下の量を1日2回投与する。 いずれも服薬は生後6-12時間以内に開始する。
180-240mg/m2 POを1日2回。 体重30kg以上の小児および思春期 300mgを1日2回。 |
| 薬剤名 | ラミブジン(エピビル) 3TC |
|---|---|
| 国内で |
液剤* |
| 特記事項 | 抗HBV作用あり。 |
| 小児への |
ハイリスク母子感染予防量、治療量ともに以下の量を1日2回投与する。
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| 薬剤名 | エムトリシタビン(エムトリバ) FTC |
|---|---|
| 国内で |
|
| 特記事項 | 米国では液剤あり。 抗HBV作用あり。 |
| 小児への |
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| 薬剤名 | アバカビル(ザイアジェン) ABC |
|---|---|
| 国内で |
液剤* |
| 特記事項 | HLA-B*5701の検査をしてからの使用を米国では推奨 |
| 小児への |
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| 薬剤名 | フマル酸テノホビルジソプロキシル(ビリアード) TDF |
|---|---|
| 国内で |
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| 特記事項 | 抗HBV作用あり。 他のARVとの合剤(ツルバダ®等)で使われることが多い。条件が整えばTAFへ変更する。 |
| 小児への |
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| 薬剤名 | テノホビルアラフェナミド TAF |
|---|---|
| 国内で |
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| 特記事項 | 抗HBV作用あり。 テノホビルのプロドラッグ。 腎機能と骨密度への影響が少なく、ゲンボイヤ®、デシコビ®、ビクタルビ®、シムツーザ®等の合剤がある。 |
| 小児への |
12歳以上かつ体重35kg以上の思春期から成人までEVG150mg/cobi150mg/TAF10mg/FTC200mgとして1日1錠(Ccr<30mL/minでは使用を控える) |
表XV-4-2 小児の主な抗HIV治療薬(NNRTI)
| 薬剤名 | ネビラピン(ビラミューン) NVP |
|---|---|
| 国内で |
シロップ* |
| 特記事項 | 2歳以上では、最初の2週間は半量、つまり1日1回で開始し、皮疹などの副作用がないことを確認後に1日2回のフルドーズに上げる。 |
| 小児への |
(在胎32週以降)ハイリスク母子感染予防でAZT(+3TC)に追加する投与量として、初回を生後48時間以内、2回目を初回2日後、3回目を2回目の4日後に投与。
|
よりハイリスク母子感染予防または治療量として、
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| 薬剤名 | リルピビリン(エジュラント) RPV |
|---|---|
| 国内で |
|
| 特記事項 | TDF/FTCとの合剤あり(コンプレラ®配合錠)。 |
| 小児への |
血中HIV RNA量が100,000コピー/mL以下で12歳以上かつ体重35kg以上の思春期から成人まで RPV25mg/TDF300mg/FTC200mgとして1日1錠。 |
表XV-4-3 小児の主な抗HIV治療薬(PI)
| 薬剤名 | ロピナビル・リトナビル配合剤 LPV/r |
|---|---|
| 国内で |
液剤 |
| 特記事項 | LPV/rtv/kg換算と/m2換算の投与量調節法があるが、/m2換算の方式を示す。 米国には100mgLPV/25mgRTVの小児用錠もある |
| 小児への |
修正在胎期間42週未満、かつ生後14日未満では毒性が高く、原則として禁忌
|
| 薬剤名 | アタザナビル(レイアタッツ) ATV |
|---|---|
| 国内で |
|
| 特記事項 | 6歳未満の小児への適切な投与量のデータは不十分。また、3ヵ月未満では高ビリルビン血症のリスクのため使用すべきでない。稀に慢性腎障害。 |
| 小児への |
新生児/乳児 使用を認められていない 米国には3ヵ月以上、体重5kg以上にパウダー製剤もある 小児(6歳以上18歳未満)では、カプセル製剤で下記を1日1回食事とともに
|
| 薬剤名 | ダルナビル(プリジスタ) DRV |
|---|---|
| 国内で |
|
| 特記事項 | 米国には75mg錠と液剤あり。3歳未満の小児には禁忌。 COBIとの合剤:プレジコビックス®は小児未適応。 |
| 小児への |
小児(3歳以上かつ10kg以上、12歳未満)では、下記を1日2回食事とともに
|
表XV-4-4 小児の主な抗HIV治療薬(INSTI)
| 薬剤名 | ドルテグラビル(テビケイ) DTG |
|---|---|
| 国内で |
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| 特記事項 | ABC/DTG/3TCの合剤トリーメク®がある。 睡眠障害などの中枢神経症状の出現に注意。 |
| 小児への |
未治療あるいはインテグラーゼ阻害薬以外の抗HIV薬による治療経験があり、かつUGT1A1/CYP3A誘導薬剤を用いていない場合で、 体重20kg以上かつ40kg未満で、 50mg、1日1回、食事に関係なく |
| 薬剤名 | ラルテグラビル(アイセントレス) RAL |
|---|---|
| 国内で |
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| 特記事項 | 米国では,チュワブル錠と液剤あり。 早産・低出生体重児を除く母子感染ハイリスク児に、NATで感染否定されるまでか生後6週までAZT/3TC/RALを投与する選択肢もあり。 |
| 小児への |
在胎37週以上かつ体重2kg以上の
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| 薬剤名 | エルビテグラビル EVG |
|---|---|
| 国内で |
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| 特記事項 | ゲンボイヤ®配合錠として使われる。 |
| 小児への |
6歳以上かつ体重25kg以上で、
|
| 薬剤名 | ビクテグラビル BIC |
|---|---|
| 国内で |
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| 特記事項 | ビクタルビ®配合錠として使われる。 |
| 小児への |
6歳以上かつ体重25kg以上で、
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表XV-5 小児HIV感染症において治療変更を考慮する場合
| ウイルス量による判断 (1週間以上の間隔をおいた2回以上の検査値を見て判断する) |
治療によるウイルス量の低下が不十分治療開始8-12週後においてもウイルス量がベースラインから1.0log10以上減少しないか、治療開始後6ヵ月してもウイルス量が200コピー/mL未満にまで減少しない場合。 ウイルス量の再上昇いったん検出感度以下にまで減少したHIV-RNAが、たびたび検出されるようになった場合。 ときに1000コピー/mL未満の低いウイルス量が検出されることはよくあるので、ウイルス学的失敗と考えなくてもよいが、1000コピー/mLを超えるウイルス量が続けて検出されたときはウイルス学的失敗を疑う。 |
| 免疫学的側面からの判断 (1週間以上の間隔をおいた2回以上の検査値を見て判断する) |
治療による免疫の改善が不十分5歳未満でCD4<15%の高度の免疫低下がある患児で、最初の1年間の治療でCD4が5%以上改善しない場合。 5歳以上ではCD4<200/μLの高度の免疫低下がある患児で、絶対数で50/μL以上の改善が最初の1年で見られない場合。 免疫低下の持続5%以上のCD4陽性Tリンパ球の減少が持続する場合(5歳以上では、CD4陽性Tリンパ球の絶対数が治療前のベースラインよりも低下する場合)。 |
| 臨床的側面 |
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