XVI医療従事者におけるHIVの曝露対策
5.曝露事象から予防内服開始までの時間的猶予
最適な予防効果を得るためには曝露から予防内服までの時間的間隔を出来るだけ短くすべきである。動物実験の結果では曝露後24時間から36時間以降に曝露後予防を開始すると有効性が劣るとされるが、ヒトについては曝露後36時間以降に開始した曝露後予防の効果を否定する報告もないため、曝露から長期間(たとえば1週間)が経過した場合であっても曝露後予防を検討してもよい。
エビデンスは乏しいが、可能であれば2時間以内の開始が重要と考えられる。米国CDCガイドラインには「PEP should be initiated as soon as possible, preferably withinhours of exposure」と記載され、時間としては「数時間」と記載されている6)。米国ニューヨーク州のガイドライン(2020年)には「An HIV exposure is a medical emergencyand rapid initiation of PEP—ideally within 2 hours and no later than 72 hours postexposure—is essential to prevent infection.」と記載され、「2時間」の目安が示されている11)。また2008年の英国のガイドラインには「PEP should be commenced as soon aspossible after exposure, allowing for careful risk assessment, ideally within an hour」と記載され、「1時間」の目安が示されている12)。つまり、曝露後、速やかな内服が推奨され「理想的には1時間あるいは2時間以内」を勧めるガイドラインがあるという現状である。なお、2014年の英国の調査では、HIVの予防内服をした者のうち89%(535/589)が24時間以内に内服を開始し、感染事例はなかったと報告されている13)。
しかし、英国の職業的HIV曝露後予防のガイドラインでの「由来患者の血漿HIV RNA量が200コピー/mL未満では抗HIV薬の内服は推奨しない」との考え方を考慮すると、「由来患者の血漿HIV RNA量が200コピー/mL未満」の場合には曝露後から予防内服開始までの時間にはかなり自由度があると考えられる。
曝露事象から「2時間以内」という時間的猶予から考えると、夜間や週末までも含めたすべての時間帯で対応可能とする必要がある。特に救急外来医師が対応することも多く、救急外来部門と連携を確実にしておくことが重要である。HIV感染者への医療は全ての医療機関で実施される可能性があるが、多くの施設ではHIV感染症の専門家が不在と考えられるので、各地域において協力体制を確立することが必須である。例えば、神奈川県のホームページ(https://www.pref.kanagawa.jp/docs/ga4/cnt/f6943/p22642.html)には「HIV針刺し事故発生時の対応病院について」を地図で記し、県下の医療機関・介護施設等での曝露事象に関する対応が時間外においても2時間以内に開始可能となる体制が分かりやすく示されている。
尚、72時間以降では内服を推奨しない場合が多いが、非常にHIV伝播のリスクが高い場合には1週間後でも内服開始を考慮してもよい6)。
判断が困難な場合には、曝露医療者の同意後、1回目の内服を実施する方法もある。それにより(例えばアイセントレス®;RALを選択した場合には12時間の)専門家と相談する時間的余裕が確保される。
図XVI-1 神奈川県における針刺し事故発生時の対応病院について
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受診と抗HIV薬の予防的服用を行うことのできる病院 -
医師の指示があれば抗HIV薬の予防的服用ができる病院