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HOME > HIV診療における外来チーム医療マニュアル > 第3章 チームで支援する諸問題

5)抗HIV薬・抗HIV療法

(1)抗HIV療法の原則

治療の原則は現在、次の通りである。

多剤併用療法で実施する。原則として3剤以上とする。(PIのブースト剤として用いるRTVは1剤と数えない)。治療の目標は血中のウィルス量を検出限界(40コピー/mL)未満に抑制することである。

抗HIV療法の効果を維持するために、服薬アドヒアランス100%を目指す。

なお、現在の抗HIV薬は細胞でのHIV増殖を抑えているに過ぎないので、たとえ、CD4陽性リンパ球数など検査データが回復しても抗HIV療法は中断しない。

(2)抗HIV薬の服薬期間

外見上健康に見える無症候期でも、HIVはリンパ組織で盛んに増殖し免疫機構を破壊している事が知られている。血中のHIVの半減期は数時間と短いが、一日に産生されるウィルス粒子は約1010個とされ、血中のウィルス量は両者のバランスによる。HIVが感染したCD4陽性リンパ球の多くは半減期が概ね1日強と短いが、静止期にあるCD4陽性細胞の半減期は平均43.9ヶ月と報告された。この細胞が体内に105個あると仮定すると、体内からHIV感染細胞が全て消滅するには約60年と推計された。このために長期服薬が必要とされている。

(3)治療開始時期

治療開始時のCD4陽性リンパ球数と3年後の生存率との検討から、CD4陽性リンパ球数が350/μL以上では生存に大きな差がないことが示された。近年改善されつつあるが、抗HIV薬の服薬量は多く、また副作用も出現し、治療は長期におよぶため、患者にとって服薬の継続は苦痛であり、服薬アドヒアランス低下による薬剤耐性ウィルス出現のリスクも伴っている。治療開始の時期はガイドラインが随時更新されることから、最新のガイドラインを参照する(41ページ参照)。いずれも開始前の服薬指導が重要である。

(4)抗HIV薬の種類

HIVは細胞表面のCD4分子やケモカイン・レセプターを介して細胞内に侵入する。遺伝情報はHIV自身が持つ酵素である逆転写酵素によってウィルスRNAからDNAに逆転写される。逆転写されたDNAは核内に移動し、宿主のDNAにHIVが持つ酵素インテグラーゼによって組み込まれる。宿主細胞は組み込まれたDNA情報に基づいてRNA、さらにはタンパク質を産生していく。タンパク質は前駆タンパク質として合成され、HIVのプロテアーゼによって適切な箇所で切断される。HIVは必要なウィルスRNA、タンパクなどを最終的に取り込んで発芽、成熟していく。抗HIV薬は、このようなウィルスの侵入から増殖までの過程を様々な段階で阻害する薬剤で、逆転写酵素阻害薬、プロテアーゼ阻害薬、インテグラーゼ阻害薬、CCR5阻害薬に分類される。

①プロテアーゼ阻害薬

プロテアーゼ阻害薬は、わが国で現在9剤(2009年10月現在)が承認され、いずれも強い抗HIV効果を有している。本剤は主に肝臓で代謝される。肝臓などのCYP450の活性を阻害あるいは誘導する薬剤が多く、併用薬に注意する。また、副作用として脂質代謝異常、脂肪分布異常(リポジストロフィー)、糖代謝異常などを来す事がしばしばであり注意を要する。

②逆転写酵素阻害薬

HIV逆転写酵素の阻害薬であり、わが国で11剤、さらに3つの合剤がある。作用機序と化学構造の違いから、非核酸系と核酸系に分類される。非核酸系にはEFV、NVP、DLV、ETRの4剤がある。核酸系にはAZT、ddI、3TC、ABC、d4T、TDF、FTCの7剤がある。

ⅰ非核酸系

EFVに代表される。EFVは強い抗HIV効果を有する。副作用にふらつき、異夢、発疹などがある。他の精神・神経系副作用として、うつ、睡眠障害、希死念慮があり、注意を要する。妊婦ではサル胎児の催奇形性の報告があり服薬は勧められない。肝代謝酵素の阻害、誘導が報告されており、併用薬に注意する。

ⅱ核酸系

TDF+FTC(合剤ツルバダ)、ABC+3TC(合剤エプジコム)などが主に使用される。このクラスの薬剤で重篤な副作用に腎機能障害(TDF)、過敏症(ABC)などがあり注意を要する。

一覧表参照(https://www.haart-support.jp/information/index.htm

③インテグラーゼ阻害剤

既存の薬剤とは異なる作用機序であるため、既存の薬剤に耐性を示している場合も有効である。

また、PI、NNRTIと比較して薬剤相互作用が非常に少なく併用薬剤も比較的安全に投与できる。今後の長期的な有効性及び安全性の集積が待たれる。

④CCR5阻害薬

CCR5指向性HIVの宿主細胞への侵入を阻害する。CCR5と呼ばれる固有のケモカインレセプターを介するウィルスの指向性について確認を行った上で投与が可能となる。

(5)治療効果のモニタリング

①血中ウィルス量

血中ウィルス量は抗HIV療法の抗ウィルス効果を把握する上で重要なパラメーターの一つである。血中ウィルス量が検出限界未満であれば患者体内のHIVの増殖は十分に抑えられ、治療は成功していると評価できる。血中ウィルス量が上昇した場合の原因として、HIVが薬剤耐性変異を獲得した事によって現在の治療薬の効果が減弱し、HIVの増殖が抑制できなくなっている場合と、アドヒアランスが不良である場合がある。

薬剤耐性の可能性を疑った場合は薬剤耐性検査(93ページ、資料14参照)を行うことが望ましい。検査の結果、服薬中の薬剤に対して薬剤耐性が認められたときには治療薬の変更を視野に入れる必要がある。変更にあたっては薬剤耐性検査の結果を慎重に検討し、次の治療薬の選択を行うことが必要である。判断に迷う場合は専門医に相談する。耐性変異が生じた原因としてアドヒアランスの不良も考えられるので、服薬指導、支援を強化することも考慮する。耐性変異が認められないにも関わらず、ウィルス量が上昇している場合は、服用できていない可能性がある。血漿中ウィルス量の定量検査は再診時毎の定期的なモニタリングが推奨される。

また抗HIV薬未開始の場合でも、臨床経過を把握するために定期的な検査が推奨される。患者の状態に変化が見られた場合も、適宜血中ウィルス量検査を行う。

コラム 血中ウィルス量検査の説明

抗HIV療法の開始時期の判断を正確に行うためには、適切な検査を行って血漿中HIVのRNA量を測定する必要がある事を説明する。ウィルス量が高値の場合は薬剤治療を早く開始して体内のHIV量を検出限界未満に抑えることが患者の予後の改善に寄与し、逆にウィルス量が低い場合には未治療でも進行が遅いとの報告もあるが、最近では治療の開始時期(前述)にはCD4陽性リンパ球数が重要視されている。ウィルス量は患者の臨床状態を反映する一つの重要な指標であり、特に治療開始後は治療効果の良い指標となる事を説明する。

服薬開始後に予想されるウィルス量の推移について説明する。服薬治療開始後、100%近いアドヒアランスで服薬を継続した場合には2~8週間でウィルス量が1/10に低下し、24週間以内で400コピー/mL未満、48週以内に40コピー/mL未満になると予想される。

服薬によりウィルス量を検出限界未満に抑え続けられれば、CD4陽性リンパ球数も上昇しAIDS発病を引き延ばせる事を説明し、医師の指示に従って正しく服薬する事が患者の健康を保ちQOLを保つために大切である事を説明する。

治療効果の確認には、服薬開始後3ヶ月頃のウィルス量の検査が有用であることを説明する。血漿中ウィルス量が検出限界未満になった後も、定期的に受診し、ウィルス量を検査し、長期間にわたって観察する事が、患者の健康維持の上で大切である事を説明する。

服薬によってウィルス量が検出限界未満になっても体内のHIVが消失した訳ではなく、服薬を中止すれば速やか(1~3週間)に元のウィルス量に戻ってしまう事を説明する。

服薬を正しく行わなかった場合(飲んだり飲まなかったりを繰り返す)のリスクとして体内で再びHIVが増殖を開始する様になり薬剤耐性HIVが出現する危険が高くなる事を説明する。薬剤耐性HIVが出現してしまうと、現在服用中の薬剤が効かなくなったり、同じクラスの他の薬剤にも耐性になる恐れがある事を説明する。

②CD4陽性リンパ球数

CD4陽性リンパ球は正常な免疫を維持するために重要な細胞である。HIVは、主にこのCD4陽性リンパ球に感染する。従って、CD4陽性リンパ球の数は、抗HIV療法によって、どの程度免疫力が回復したかの指標となる。ただし、数値は患者ごとに個人差があり、年齢にも左右されることから、1回の検査で治療効果を判断せず、数回の検査により判定する事が必要である。

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