VII抗HIV薬の作用機序と薬物動態

1.抗HIV薬の作用機序

(1)HIVの増殖サイクル

 HIVはRNAウイルスである。HIV粒子はレセプターを介して宿主細胞(主にCD4陽性Tリンパ球とマクロファージ)に侵入し、宿主細胞内でHIV自身の逆転写酵素によってRNAからDNAに逆転写される。逆転写されたDNAは宿主細胞の核内でHIV自身のインテグラーゼによって宿主DNAに組み込まれる。転写・翻訳を経て複合タンパクが形成され、最後にこの複合タンパクがHIV自身のプロテアーゼ(タンパク分解酵素)により切断されてHIVの機能的タンパクが完成する。HIVのRNAとタンパクが合わさってウイルスを構成し宿主細胞膜から出芽することにより新たなHIV粒子が形成される(図VII-1)。

 HIVの増殖サイクルを中断させる薬剤はすべて抗HIV作用を持つことになるが、正常細胞の増殖に必須のステップ(転写・翻訳など)に影響を与える薬剤は治療薬として使用することはできない。前述の増殖サイクル中で、阻害しても正常の細胞増殖に理論上影響を与えないステップとしては、①HIV粒子と細胞表面レセプターとの結合・膜融合、②逆転写、③逆転写産物の宿主DNAへの組み込み、④プロテアーゼによる切断が挙げられる。②のステップを阻害する逆転写酵素阻害剤は、さらにヌクレオシド系と非ヌクレオシド系に大別される。

VII-1 HIVの増殖サイクル
HIV(RNAウイルス)宿主細胞に侵入し増殖する仕組みを解説している図

(2)ヌクレオシド系逆転写酵素阻害剤(NRTI)

 ヌクレオシド系逆転写酵素阻害剤は、五炭糖の3'部分の水酸基を欠いた修飾ヌクレオシドである。本系統の薬剤は細胞内でリン酸化酵素によりリン酸基が付加され活性型であるヌクレオチド型となる。これが逆転写酵素により伸張しつつあるHIVのDNA鎖内に正常のヌクレオチドの代わりに組み込まれるが、五炭糖の3'部分の水酸基を欠いているため、次に結合すべきヌクレオチドが結合できなくなり、ウイルスDNAはそれ以上伸長することができなくなる。AZTを例として作用機序の模式図を示す(図VII-2)1)2019年3月現在、ジドブジン(Zidovudine: AZT(ZDV)、商品名レトロビル®)、ラミブジン(Lamivudine: 3TC, 商品名エピビル®)、アバカビル(Abacavir: ABC, 商品名ザイアジェン®)、テノホビルジソプロキシルフマル酸塩(Tenofovir disoproxil fumarate: TDF, 商品名ビリアード®)、エムトリシタビン(Emtricitabine: FTC, 商品名エムトリバ®)が国内において承認されている。また、ジドブジン/ラミブジンの合剤(商品名コンビビル®)、アバカビル/ラミブジンの合剤(商品名エプジコム®)、テノホビルジソプロキシルフマル酸塩/エムトリシタビンの合剤(商品名ツルバダ®)に加え、2016年12月にテノホビルアラフェナミドフマル酸塩(Tenofovir alafenamide fumarate: TAF)/エムトリシタビンの合剤(商品名デシコビ®)も承認された。TDF、TAF共にTFVのプロドラッグではあるが、TAFはTDFと比較して効率的に標的細胞内に移行するため、低用量でTDFと同等の抗HIV活性を示す。

 宿主のミトコンドリアDNA合成を担当するDNAポリメラーゼγは、ヌクレオシド系逆転写酵素阻害剤を基質として取り込む傾向を持つので、本薬剤によりミトコンドリアの増殖が障害されることがある。ヌクレオシド系逆転写酵素阻害剤の副作用である貧血や末梢神経障害・乳酸アシドーシスは、ミトコンドリア障害によるものと考えられている。なお、TDFおよびTAFは、ヌクレオシドがすでに1リン酸化された修飾ヌクレオチド構造を持ち、同様に逆転写酵素阻害作用を有する。構造から厳密にはヌクレオチド系に属するが便宜上、本薬剤もNRTIに分類されている。

VII-2 AZTの作用機序
AZTの作用を解説している図。AZTは順にAZT-MP、AZT-DP、AZT-TPへと三リン酸化される。AZT-TPがDNA鎖に取り込まれるとその部分より先のDNA鎖の合成が停止する。
(文献1を一部改変)

(3)非ヌクレオシド系逆転写酵素阻害剤(NNRTI)

 自然界に存在する物質や合成化合物の中には、上記とは異なるメカニズムで逆転写酵素阻害活性を持つものがある。化学構造や作用機序に共通点があり、一括して非ヌクレオシド系逆転写酵素阻害剤と呼ばれている。本系統の薬剤はヌクレオシドの基本骨格を持たず、逆転写酵素の活性中心の近傍に結合してアロステリックに酵素活性を阻害するという共通の特徴がある。2019年3月現在、ネビラピン(Nevirapine: NVP, 商品名ビラミューン®)、エファビレンツ(Efavirenz: EFV, 商品名ストックリン®)、エトラビリン(Etravirine: ETR, 商品名インテレンス®)、リルピビリン(Rilpivirine: RPV, 商品名エジュラント®)の4剤が承認されている。また、リルピビリン/テノホビルジソプロキシルフマル酸塩/エムトリシタビンの合剤(商品名コムプレラ配合錠®)に加え、2018年8月にリルピビリン/テノホビルアラフェナミドフマル酸塩/エムトリシタビンの合剤(商品名オデフシィ配合錠®)が承認された。NVP, EFVの化学構造は異なるが、逆転写酵素に結合する部位はほぼ同じである。そのため1つの薬剤に対して耐性を獲得したHIVは、他の薬剤に対しても交叉耐性を示すことが多い。一方、ETRは既存のNNRTIと交叉耐性が少ない。これはETRがflexibilityを有しているために、HIV-1の逆転写酵素に複数箇所で結合し、その活性を阻害するためであるとされている2)。RPVは、ETRと同様にジアリルピリジン誘導体である。

(4)プロテアーゼ阻害剤(PI)

 HHIVの機能タンパクは、まず複合タンパクとして産生され、HIV自身のプロテアーゼによって特定の部位で切断されてはじめて機能を発揮する。プロテアーゼ阻害剤は、プロテアーゼの酵素活性部位に結合しその活性を消失させる。その結果ウイルスは完成型となれず、感染力を失う。2019年3月現在、リトナビル(Ritonavir: rtv, 商品名ノービア®)、ネルフィナビル(Nelfinavir: NFV, 商品名ビラセプト®)、ロピナビル/リトナビル配合剤(Lopinavir/Ritonavir: LPV/r, 商品名カレトラ®)、アタザナビル(Atazanavir: ATV, 商品名レイアタッツ®)、ホスアンプレナビル(Fosamprenavir: FPV、商品名レクシヴァ®)、ダルナビル(Darunavir: DRV、商品名プリジスタ®、プリジスタナイーブ®)およびダルナビルとブースターであるコビシスタット(Cobicistat: cobi)との合剤(Darunavir/Cobicistat: PCX、商品名プレジコビックス配合錠®)の7剤が承認されている。

 プロテアーゼ阻害剤には吸収の悪い薬剤や、溶解性や溶出性を高めるために比較的多めの添加物を使用した薬剤がある。服用すべき錠剤の数が多いものもあるが、近年発売された薬剤の1回服用量は比較的少ないものが多く、1回の総服用量も減少傾向にある。PIの多くは肝臓や小腸粘膜にあるCYP3A4などの代謝酵素の活性を抑制し、他の薬剤の血中濃度に大きな影響を及ぼす。このため、プロテアーゼ阻害剤を含むARTを行う際には、患者の服用しているすべての薬剤を(健康食品を含め)把握する必要がある。

(5)インテグラーゼ阻害剤(INSTI)

 HHIVインテグラーゼは、HIV遺伝子にコードされたウイルス複製に必要な酵素であり、インテグラーゼ阻害剤は、HIVインテグラーゼの触媒活性を阻害する3)。インテグラーゼはHIVの複製に欠かせない酵素の一つとされ、HIV遺伝子断端を組み込み反応の基質として活性化処理する3'プロセッシング活性と組み込み酵素活性の、少なくとも2つの酵素活性があるとされている4)2019年3月現在、ラルテグラビル(Raltegravir: RAL, 商品名アイセントレス®)、エルビテグラビル(Elvitegravir: EVG)、ドルテグラビル(Dolutegravir: DTG)が使用可能である。EVGはTDF、FTCならびにEVGの血中濃度を上昇させる働きを持つコビシスタット(Cobicistat: cobi)の4剤による合剤(商品名スタリビルド配合錠®)が承認されていたが、2016年6月にTDFをTAFに変更した合剤(商品名ゲンボイヤ配合錠®)が承認された。DTGはドルテグラビル単剤(商品名テビケイ®)、ドルテグラビル/アバカビル/ラミブジンの合剤(商品名トリーメク®)に加え、2018年11月にドルテグラビル/リルピビリンの合剤(商品名ジャルカ配合錠®)が承認された。

 2019年3月には新規化合物であるビクテグラビル(Bictegravir: BIC)とTAFおよびFTCの合剤(商品名ビクタルビ配合錠®)が承認された。

(6)CCR5阻害剤

 CCR5阻害剤は、HIVが細胞に侵入する際に利用する補受容体のC-Cケモカイン受容体5(C-C chemokine receptor 5: CCR5)を阻害する薬剤である。HIV-1がCD4陽性細胞に侵入する際、まずHIV-1エンベロープ糖蛋白のgp120がCD4と結合する。続いて、gp120-CD4複合体がCD4陽性細胞の細胞膜上にあるヒトケモカイン受容体のCCR5またはCXCR4に選択的に結合し、それによってHIV-1エンベロープ糖蛋白のgp41の反応を引き起こす。その結果、HIV-1エンベロープとCD4陽性細胞の細胞膜が融合し、HIV-1内容物がCD4陽性細胞に侵入する。CCR5阻害剤はCCR5に選択的に結合してその立体構造を変化させ、gp120-CD4複合体とCCR5の結合を阻害することで、CCR5指向性HIV-1の細胞内への侵入を阻害する。2019年3月現在、マラビロク(Maraviroc: MVC, 商品名シーエルセントリ®)が承認されている。MVCはCXCR4指向性およびCCR5/CXCR4二重指向性HIV-1の細胞内への侵入は阻害しない5)。従って、患者の持つウイルスの指向性を検査したうえで使用する必要がある。

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